鉄を摂っても治らない貧血がある。原因が別のところにある
貧血というと鉄不足が代表的ですが、高齢者では葉酸とビタミンB12の不足による貧血も少なくありません。
| 鉄欠乏性貧血 | 巨赤芽球性貧血(葉酸・B12不足) | |
|---|---|---|
| 赤血球の大きさ | 小さくなる | 大きくなる |
| 原因 | 鉄の不足、出血 | 葉酸・B12の不足、胃の萎縮、胃切除 |
| 特徴的な症状 | 爪がスプーン状に、氷を食べたくなる | 舌がつるつるして痛む、手足のしびれ、歩行のふらつき、物忘れ |
| 対応 | 鉄剤、食事 | 原因による。B12は注射が必要な場合がある |
鉄剤を飲んでも貧血が改善しないときは、この可能性を医師に相談してください。血液検査で赤血球の大きさ(MCV)を見れば見当がつきます。
ビタミンB12は、胃から出る「内因子」というたんぱく質と結合しないと吸収されません。次の場合、この仕組みが働かなくなります。
この場合、食事で補うことができません。注射または大量の経口投与が必要になります。自己判断ではなく、医師の診断が要ります。
| 葉酸 | ビタミンB12 |
|---|---|
| レバー、菜の花、ブロッコリー、ほうれん草、アスパラガス、枝豆、いちご、のり | しじみ、あさり、レバー、さんま、いわし、牛乳、卵、チーズ、のり |
葉酸は水に溶け、熱と光に弱いため、加熱で半分近く失われます。生で食べられるもの、汁ごと食べる料理、短時間の加熱を選んでください。
推奨量は葉酸240μg、B12は2.4μg(成人)。あさりの味噌汁とのり、卵、乳製品が入っていれば、B12は足ります。
ビタミンB12と葉酸の不足は、ホモシステインという物質を血中に増やします。これは動脈硬化と認知機能低下に関わるとされています。
実際に、ビタミンB12欠乏による認知機能の低下は、補充によって改善することがあります。「認知症だと思っていたら、B12不足だった」という例があるため、物忘れの検査ではB12と甲状腺機能が調べられます。
ただし、すでに認知症がある方にB12を補って改善するわけではありません。期待を持ちすぎないでください。診断がついていない段階で、原因の一つとして調べる価値がある、ということです。
ビタミンB12不足は、貧血より先に神経の症状として現れることがあります。
神経の障害は、進むと元に戻りません。早めに受診してください。
貧血全般は葉酸とビタミンB12、認知機能は認知症予防と食事をご覧ください。
血液の検査で数値が低いと言われたとき、原因を決めつけないでください。高齢の方では、複数の可能性があります。
鉄が足りないことによるものが最も知られていますが、それだけではありません。この記事で扱う栄養素の不足によるもの、腎臓の働きの低下によるもの、慢性の炎症によるもの、骨髄の病気によるもの。原因によって、対処がまったく違います。
そして、最も見落としてはならないのが、体のどこかから出血している場合です。胃や腸からの出血が、気づかないうちに続いていることがあります。とくに、痛み止めを長く飲んでいる方では、この可能性を考える必要があります。
ですから、貧血を指摘されたら、まず原因を調べてもらってください。市販の鉄剤やサプリメントを自己判断で飲み始めるのは、危険です。本当の原因が隠れたまま、時間だけが過ぎます。
とくに、便が黒い、体重が落ちている、疲れやすさが急に強くなった。これらがあれば、様子を見ずに受診してください。栄養の話をする前の段階です。
この栄養素の一方は、胃の働きがなければ吸収できません。ここが、高齢の方で特に問題になる点です。
胃から出るある物質と結びつくことで、はじめて腸から取り込まれると言われています。胃を切除した方、胃の粘膜が萎縮している方では、この仕組みが働きません。食べていても、体に入っていかないということです。
胃の手術を受けた方では、手術から何年も経ってから症状が現れることがあります。体に蓄えがあるため、すぐには出ないと言われています。数年前の手術と、いまの症状が結びつかず、見過ごされることがあります。
この場合、食事を工夫しても解決しません。注射や、特別な形の製剤による補充が必要になります。医師の管理のもとで行うものです。
胃酸を抑える薬を長く飲んでいる方も、吸収が落ちる可能性が指摘されています。何年も同じ薬を飲み続けている方は、一度、医師に確かめてください。自己判断で薬をやめないでください。
この栄養素の不足で現れる症状の中に、神経に関わるものがあります。放置すると戻らなくなることがあります。
手足の先のしびれ、感覚の鈍さ、足元がふらつく、歩きにくい。これらは、栄養の不足によって起こることがあると言われています。しかし、多くの場合、年齢のせいだと片づけられます。
問題は、時間が経つと戻りにくくなる点です。早い段階で補充すれば改善が期待できる一方、長く放置すると回復しないことがあるとされています。だからこそ、早く気づくことに意味があります。
そして、しびれの原因は他にもあります。糖尿病、脊椎の病気、脳の血管の病気、薬の副作用。いずれも、放置してよいものではありません。
しびれが続く、両側に出ている、だんだん範囲が広がっている。この場合は、受診してください。血液の検査で確かめられる項目が含まれます。「年だから」で終わらせないでください。
この栄養素の不足と、認知の働きの関係が語られることがあります。慎重に受け取る必要があります。
不足している状態が、物忘れや混乱として現れることがあると言われています。この場合、補充によって改善する可能性があるとされています。治療できる原因として、確かめる価値があるということです。
ただし、物忘れの原因の多くは、この栄養素の不足ではありません。補充すれば認知症が治る、という話ではありません。そうした宣伝で高価な製品を勧められた場合は、疑ってください。
物忘れが気になる場合は、まず医療機関で調べてもらってください。治療できる原因が隠れていることがあります。甲状腺の働き、薬の影響、脳の中の出血、うつ状態。いずれも、対処すれば改善する可能性があります。
相談先が分からなければ、地域包括支援センターが入口になります。物忘れの相談を受け付けており、適切な医療機関につないでくれます。本人が受診を嫌がる場合の相談にも応じてもらえます。
動物性の食品をほとんど食べない方では、不足が起きやすくなります。
一方の栄養素は、動物性の食品にほぼ限られて含まれると言われています。肉、魚、卵、乳製品、貝類。これらを長期間にわたって食べない生活では、蓄えが減っていきます。信条による場合も、経済的な事情による場合も、結果は同じです。
高齢の方では、意図せずこの状態になっていることがあります。肉が噛みにくくなった、魚を焼くのが面倒になった、買い物に行けなくなった。気づけば、主食と漬物と味噌汁だけ、という食生活になっていることがあります。
この場合、噛みやすい形を用意することが解決になります。ひき肉、卵、豆腐に加えて、魚の缶詰、牛乳、ヨーグルト。調理の手間が少なく、やわらかく、日持ちするものがあります。
それでも難しい場合は、補充の必要があるかを医師に確かめてください。血液の検査で分かります。食事で改善しない状態を、自己判断のサプリメントで済ませないでください。
もう一方の栄養素は、緑の葉物野菜、豆類、レバーに多く含まれると言われています。取り入れ方を考えます。
ほうれん草、小松菜、菜の花、ブロッコリー、アスパラガス。やわらかく調理すれば、噛む力が落ちている方にも使えます。おひたし、和えもの、味噌汁の具。少量でも毎日続けば積み上がります。
ただし、この栄養素は熱と水に弱いとされています。長く煮る、ゆでこぼす、何度も温め直す。こうした調理では失われます。短時間の加熱、汁ごと食べる形が向いています。
豆類と大豆製品も有用です。納豆、枝豆、煮豆。やわらかく、そのまま食べられ、たんぱく質も同時に取れます。毎日の食卓に組み込みやすい食品です。
果物にも含まれます。いちご、みかん、バナナ。加熱しないため、失われる分がありません。皮をむくだけで食べられる点も、高齢の方には利点です。
この2つの栄養素については、自己判断でサプリメントを使うことに、特有の危険があります。
一方だけを大量に取ると、もう一方の不足が見えにくくなると言われています。血液の数値が改善したように見えても、神経の障害だけが進んでいく、という事態が起こりえます。これが、自己判断が危険とされる理由です。
ですから、この2つについては、必ず医師の判断のもとで使ってください。市販の製品を「貧血によさそうだから」という理由で選ばないでください。何が足りていないかを、検査で確かめてからです。
すでに使っている製品があれば、受診のときに持っていってください。成分と量を医師に見てもらえば、必要かどうかの判断ができます。やめるべきものが見つかることもあります。
そして、複数の製品を併用している方は、成分が重複していないかを確かめてください。総合的な製品と単一の製品を同時に使うと、合計で多くなります。薬局で確かめてもらうのが確実です。
細かい話が続きましたが、日常で実行することは多くありません。
まず、動物性の食品を毎日どれかは食べることです。肉、魚、卵、乳製品。噛みやすい形、調理の簡単な形で構いません。魚の缶詰、卵、ヨーグルト。これらは手間がかからず、続けられます。
次に、緑の葉物野菜を毎日少量でも入れることです。味噌汁に入れる、おひたしを作り置きする。大量に食べる必要はありません。
そして、体重を月に一度は測ってください。落ちていれば、何かが起きています。栄養素の細かい話より、この一つの数字のほうが多くを教えてくれます。
疲れやすさ、息切れ、しびれ、物忘れ。こうした変化があれば、食事の工夫で様子を見るのではなく、受診してください。血液の検査で分かることが多くあります。食事は、診断の代わりにはなりません。
高齢者で不足しやすい葉酸とビタミンB12について、鉄欠乏性貧血との違い、胃の萎縮による吸収低下、認知機能との関係を解説します。
MIND食やDHA・葉酸・ビタミンEなど、認知症予防に役立つ栄養素と食事パターンを最新のエビデンスに基づいて管理栄養士が解説します。
胃切除後のダンピング症候群、体重減少、貧血への対応を整理します。食事の回数と量、時間のかけ方、長期的に不足しやすい栄養素を解説します。
介護保険や事業所探し、福祉用具の選び方は、同じ株式会社京谷商会が運営する情報サイトにまとめています。
介護の窓口(kaigoinfo.com)の記事。食事と運動で要介護を先延ばしにする考え方を整理しています。
介護の窓口の記事。介護保険を使う前から相談できる窓口です。
介護の窓口の記事。数値の変化を早めに捉える意味を説明しています。