「食べられない」の半分は、道具が合っていないだけのことがある
手が震える、握力が落ちた、片手しか使えない。こうした状態で「食べさせてもらう」に移る前に、道具を替えるだけで自分で食べられることがあります。
自分で食べることには、摂取量が増える、意欲が保たれる、上肢の運動になる、という利点があります。介助を減らせれば介護する側の負担も減ります。
| 困りごと | 道具 | 選ぶときの目安 |
|---|---|---|
| 器が滑る | 滑り止めマット、吸盤付き食器 | 洗いやすい素材。丸めて収納できるもの |
| すくえない | 内側にカーブのある皿、縁が立ち上がった皿 | 片手ですくって最後まで取れる形 |
| 握れない | 柄の太いスプーン、スポンジグリップ | 実際に握って確かめる。太すぎても持てない |
| 手首が返らない | 曲がるスプーン(角度調整式) | 左右で角度が違うので利き手を確認 |
| 手が震える | 重みのあるスプーン、両手で持つコップ | 重すぎると疲れます |
| 箸が使いにくい | ばね付き箸、ピンセット型の箸 | スプーンに切り替える判断も必要 |
| あごが上がる | 飲み口が斜めにカットされたコップ | 最後まであごを上げずに飲めます |
| こぼれる | ふた付きコップ、シリコンのエプロン | エプロンは受け皿があるものが実用的 |
| 熱いものが冷める | 保温食器、二重構造の皿 | 食事に時間がかかる方に |
3番目は軽視されがちですが、実際には最も長続きを左右します。プラスチックの子ども用に見える食器を拒む方は多くいます。
食器や自助具の多くは、介護保険の福祉用具の対象外です。全額自己負担になります。
ただし、次のような支援がある場合があります。
福祉用具として保険が使えるものと、実費で買うものの線引きは、ケアマネジャーや福祉用具専門相談員に確かめてください。福祉用具の話は、下の「介護のことをもっと詳しく」からご覧いただけます。
配食の容器も、食べやすさに関わります。配食のふれ愛 太子店では、仕切りのある容器でお届けしており、そのまま召し上がることも、ご家庭の食器に移していただくこともできます。
器に移したほうが食が進む方もいます。「弁当のまま」が必ずしも正解ではありません。ご家族が用意できるときは、温かいうちに器に移してみてください。
食事の道具を選ぶとき、多くの方が持ち手ばかりを気にします。しかし、実際に飲み込みやすさを左右するのは、口に入る部分の大きさです。ここを間違えると、他の工夫がすべて無駄になります。
基本は、その方の口の幅の3分の2以下です。大きすぎるスプーンは、一度に入る量が多くなり、口の中でまとめきれずに、噛まずに飲み込むことになります。これが誤嚥につながります。カレー用の大きなスプーンを使っている家庭は少なくありませんが、飲み込みに不安がある方には向きません。
深さも重要です。深いスプーンは、口の中で全部を出しきれず、残ったまま引き抜くことになります。浅くて平たい形のほうが、唇でこそげ取りやすく、口の中に残りません。介護用として売られているスプーンの多くが浅い形をしているのは、この理由です。
そして、素材です。金属のスプーンは、熱いものを載せると熱が伝わり、口の中を傷めます。感覚が鈍っている方は、熱さに気づくのが遅れます。樹脂やシリコンのスプーンなら、この心配がありません。また、噛みしめる癖がある方には、歯を傷めないシリコン製が向いています。
持ち手を選ぶには、まずその方がどう握っているかを見てください。握り方によって、必要なものが変わります。
指先でつまむように持てるなら、通常の太さで足ります。握りこむように持っているなら、持ち手が太いものに替えると安定します。市販の太いスプーンのほか、既存のスプーンにスポンジやグリップを巻きつけて太くする方法もあります。数百円で試せます。
手首が回らない、肩が上がらないという方には、首の部分が曲がったスプーンがあります。手首をひねらなくても、水平のまま口まで運べます。右手用と左手用があるので、使う側を確かめて買ってください。自分で角度を曲げられるタイプもあります。
握力がほとんどない方には、手に固定するバンド付きのものがあります。握れなくても、手のひらに固定してしまえば、腕の動きだけで食べられます。「握れないから自分では食べられない」と諦める前に、この選択肢を確かめてください。
手が震える方には、重みのある柄のものが向きます。軽い道具は、震えがそのまま先端に出ますが、重さがあると震えが抑えられます。重すぎると疲れるので、実際に持って選んでください。
道具は、スプーンだけではありません。皿とコップの選び方で、こぼす量が大きく変わります。
皿は、縁が内側に立ち上がった形を選んでください。平らな皿は、すくうときに食べものが外へ逃げます。縁に押し当ててすくえる形なら、最後の一口まで自分で食べられます。既存の皿に取り付ける、着脱式の縁も売られています。
底が広く、重さのある皿を選んでください。軽い皿は、すくうたびに動きます。裏に滑り止めが付いた皿、または滑り止めマットを併用してください。これだけで、片手でも食べられるようになる方がいます。
コップは、あごが上がらない形が重要です。普通のコップで最後まで飲もうとすると、頭を後ろに倒すことになり、この姿勢は飲み込みにとって最も危険です。鼻の当たる部分を切り取ったコップなら、あごを引いたまま飲みきれます。
持ち手が2つ付いたコップ、ふた付きで飲み口の付いたコップ、傾けなくても吸える形。その方が握れる形、こぼさない形を選んでください。ストローは便利に見えますが、勢いよく吸い込むとむせることがあるため、飲み込みに不安がある方には向かない場合があります。
よい道具をそろえても、使ってもらえなければ意味がありません。実際、「介護用の道具は嫌だ」と言って使わない方が少なくありません。
理由の多くは、見た目です。いかにも介護用という見た目のものは、自分が弱ったことを突きつけられるように感じられます。最近は、見た目が普通の食器と変わらないものが増えています。木目調、陶器風、色や柄のあるもの。選べるなら、そちらを選んでください。
家族と同じ食卓で、一人だけ違う道具を使うことへの抵抗もあります。本人に選ばせてください。いくつか候補を用意して、どれがよいかを聞く。押しつけられた道具より、自分で選んだ道具のほうが使われます。
そして、いきなり全部を替えないでください。スプーンだけ、皿だけ、と一つずつ替えていくほうが受け入れられます。効果が実感できれば、次の道具にも前向きになります。
逆に、道具を替えたのに使いにくそうなら、合っていません。合わない道具を我慢して使わせないでください。選び直せばよいだけです。
介護用の食器や自助具は、特別な場所でしか買えないわけではありません。入手先を知っておいてください。
まず、福祉用具の販売店です。実物を手に取って選べるのが最大の利点です。展示場を持つ店なら、いくつも試して比べられます。地域包括支援センターやケアマネジャーに聞けば、近くの店を教えてもらえます。
インターネットでも買えます。種類が豊富で、値段も比べやすいのですが、手に持った感覚が分かりません。最初の1本は実物を見て選び、同じものを買い足すときにインターネットを使うという順番が失敗しません。
値段は、スプーン1本で千円から3千円ほど、皿が2千円から5千円ほど、専用のコップが千円から3千円ほどが目安です。介護保険の給付対象になるものは限られており、食器や自助具の多くは自己負担です。ただし、市町村によっては独自の助成がある場合があります。
そして、代用できるものもあります。滑り止めは濡らしたふきんで、太い持ち手はスポンジを巻いて、浅いスプーンは離乳食用のもので代用できます。まず代用品で試して、効果があれば専用品を買うという進め方なら、無駄が出ません。
ここまで挙げた選び方は一般的な目安です。実際にどれが合うかは、その方の手の状態、口の大きさ、飲み込みの力によって変わります。
作業療法士が、この分野の専門です。実際に食べている場面を見てもらえば、どこでつまずいているかが分かります。本人も家族も気づいていない原因が見つかることがよくあります。病院のリハビリ、訪問リハビリ、通所リハビリで相談できます。
言語聴覚士は、飲み込みの専門です。スプーンの大きさや形は、飲み込みの状態と直結しています。むせが増えている、食後に痰が増える、といった変化があるなら、道具の前に飲み込みの評価を受けてください。
そして、道具だけで解決しないこともあります。姿勢が崩れていれば、どんな道具を使っても食べにくいままです。まず姿勢、次に食事の形、そして道具。この順で見てください。姿勢の整え方は食事の姿勢にまとめています。
道具を替えることには、量が増える、時間が短くなる、こぼれなくなる、といった目に見える効果があります。それ以上に大きいのは、自分で食べられるという実感が保たれることです。手を出す前に、道具を替えてみてください。
道具を替えれば解決すると思って買いそろえたのに、変わらなかった。この失敗はよくあります。道具の前に確かめるべきことがあります。
まず、口の中の状態です。合わない義歯、痛む歯、口内炎、乾燥。これらがあれば、どんな道具を使っても食べにくいままです。食べる量が減った、時間がかかるようになった、という変化の原因が口の中にあることは非常に多くあります。
次に、姿勢です。体が傾いている、足が浮いている、テーブルの高さが合っていない。この状態では、道具の効果が出ません。姿勢を整えるほうが、はるかに費用がかからず効果が大きい場合があります。
そして、食事の形です。ばらけるもの、硬いもの、大きいもの。そもそも食べにくい形のものを、道具でどうにかしようとしても限界があります。
薬の影響も見てください。口が乾く、眠くなる、手が震える。こうした作用のある薬があります。心当たりがあれば、医師か薬剤師に相談してください。道具を買う前に、この4つを確かめると無駄が減ります。