介助する人が立っていると、食べる人のあごは必ず上を向く
立ったまま介助すると、食べる人は見上げる姿勢になります。あごが上がれば気管の入り口が開き、むせやすくなります。介助者は必ず座り、目線が同じか、少し下になる位置につきます。
座る位置は、正面ではなくやや斜め横(利き手側)が扱いやすくなります。正面に座ると、スプーンを口に運ぶときにどうしても上から入れる角度になります。
| 項目 | 目安 |
|---|---|
| スプーンの幅 | 口の幅の3分の2以下。小さめのティースプーン程度 |
| ボウルの深さ | 浅いもの。深いと食べ物が残り、抜き取るときに口を大きく開けさせてしまう |
| 一口の量 | ティースプーン1杯(3〜5g)から始める |
| 運ぶ角度 | 下唇の少し下から、水平に入れる。上から差し込まない |
| 抜くとき | 上唇でこそげ取ってもらい、水平にまっすぐ引く |
大きいスプーンは危険です。一度に入る量が多くなり、飲み込みきれずに残った分が誤嚥につながります。「早く食べ終わる」ことは目的ではありません。
4番目が最も重要です。飲み込む前に次を入れると、口の中に食べ物がたまり、そのまま気管へ入ります。のどぼとけの動きを見る習慣をつけてください。
| やりがちなこと | なぜ危ないか |
|---|---|
| 立ったまま介助する | あごが上がり、誤嚥しやすくなる |
| 大きいスプーンで運ぶ | 一口が多すぎて飲み込みきれない |
| 飲み込む前に次を入れる | 口の中に溜まり、気管へ流れ込む |
| 「はい、あーん」と急かす | 本人のペースが崩れる |
| むせている最中に水を飲ませる | むせが収まってからにする |
| テレビをつけたままにする | 注意がそれて飲み込みが雑になる |
| 眠そうなときに食べさせる | 覚醒が不十分だと飲み込みの反射が働かない |
最後の項目は特に大切です。しっかり目が覚めていない状態で食べさせないこと。声をかけ、体を起こし、口を湿らせ、目が合ってから始めます。
全部介助してしまうと、残っている力が落ちていきます。次のような段階的な支え方があります。
時間はかかりますが、自分で食べるほうが摂取量は増えます。時間がないときだけ介助を増やす、という使い分けで構いません。
食事介助は、スプーンを口に運ぶところから始まるわけではありません。始める前に確かめることがあります。ここを飛ばすと、どれだけ丁寧に介助しても安全になりません。
まず、起きているかどうかです。眠そうな状態、うとうとしている状態で食べさせると、誤嚥します。はっきり目が覚めて、こちらの声かけに反応してから始めてください。声をかけて反応が鈍いときは、食事を後にずらす判断も必要です。
次に、姿勢です。座れているか、あごが上がっていないか、体が傾いていないか。姿勢を整えるのに5分かけても、そのほうが結果として安全で早く終わります。
そして、口の中です。前の食事の残りがないか、乾いていないか、痰がたまっていないか。口の中が乾いていると、食べものが張りついて飲み込めません。食事の前に口をすすぐ、湿らせる、口の体操をする。この一手間で、そのあとが楽になります。
最後に、体調です。熱はないか、いつもと様子が違わないか、痰が多くないか。体調が悪い日は、飲み込む力も落ちています。普段どおりに食べさせると危険です。無理をせず、量を減らすか、形を変えるか、その日は控えるかを判断してください。
使う道具によって、安全性が変わります。介助に使うスプーンは、小さめで、浅いものを選んでください。
大きなスプーンだと、1回の量が多くなり、口の中に入りきりません。深いスプーンだと、口から取り込むときに上唇でこそげ取れず、あごを上げて流し込むことになります。ティースプーン程度の大きさで、皿の部分が浅いものが向いています。介護用品として、この形のスプーンが売られています。
1回の量は、スプーンに軽く1杯です。山盛りにしないでください。口に入れたときに、口の中でまとめられる量にとどめます。多すぎると、まとめきれないまま のどへ流れます。
入れる位置は、舌の中央です。奥に入れすぎると、まとめる前に飲み込むことになり、危険です。手前すぎると、こぼれます。下唇に軽くスプーンを当て、口が開いたら舌の上に置き、上唇が閉じるのを待ってから、まっすぐ引き抜きます。上に持ち上げながら抜くと、あごが上がります。
そして、必ず飲み込んだことを確かめてから次を入れてください。のどが動くのを見る、あるいは声を出してもらって確かめます。口の中に残ったまま次を入れると、量が積み上がって詰まります。
何から食べてもらうか、どう組み合わせるかにも、意味があります。
最初の一口は、水分やゼリーなど、のどを湿らせるものから始めます。乾いた口にいきなり ごはんを入れると、張りついて飲み込めません。汁もの、お茶ゼリー、とろみをつけた水などが向いています。
そのあとは、主食、主菜、副菜を交互に出します。同じものばかり続けると飽きますし、味の変化があるほうが唾液も出ます。本人に「次は何にしますか」と聞けるなら、選んでもらってください。選ぶことができるだけで、食事が能動的なものになります。
途中で水分を挟むことも大事です。口の中に残ったものを流し、次を受け入れやすくします。ただし、水分でむせる方の場合は、とろみをつけたものを使ってください。
そして、最後に口の中を確かめてください。食べ終わったつもりでも、頬の内側や舌の下に残っていることがあります。残ったまま横になると、あとで のどへ落ちて誤嚥します。口をすすぐか、確認して取り除いてください。
介助中の声かけは、単なる会話ではなく、安全のための手順の一部です。
まず、これから何をするかを伝えます。「お食事にしましょう」「次はお味噌汁です」。いきなり口元にスプーンが来ると、驚いて息を吸い込み、誤嚥します。何が来るか分かっていれば、体が受け入れる準備をします。
次に、飲み込みを促す声かけです。「ごっくんしましょう」「もう一度飲み込んでください」。飲み込む動作を意識してもらうことで、確実になります。口の中に残っているときは、もう一度飲み込んでもらいます。
逆に、避けたい声かけがあります。「早く食べて」「もう少し頑張って」といった急かす言葉です。急がされると、噛む前に飲み込むことになり、危険です。そして、食事の時間が苦痛になります。
また、食べているあいだに複雑な質問をしないでください。答えようとして口の中のものが のどへ落ちます。会話は、飲み込み終わったあとにしてください。「おいしいですか」と聞くのも、口の中が空になってからです。
介助する側から見ると、全部やってしまうほうが早く終わります。しかし、それを続けると、自分で食べる力が失われていきます。
できる部分は残してください。スプーンを持てるなら持ってもらう。皿を押さえられるなら押さえてもらう。口を拭くのを自分でしてもらう。時間はかかりますが、その動作ができる期間が延びます。
道具を工夫すると、自分でできる範囲が広がります。持ち手の太いスプーン、滑り止めのマット、縁の立った皿、両手で持てるコップ、傾けやすいコップ。「もう自分では食べられない」と判断する前に、道具を試してください。道具を替えただけで、自分で食べられるようになる方がいます。
また、一部だけ介助するという形もあります。前半は自分で食べてもらい、疲れてきたら介助に切り替える。最後まで自分でやろうとすると疲れて量が入らないので、途中から手伝うほうが合計は増えます。
そして、こぼすことを責めないでください。こぼすのが嫌で、自分で食べるのをやめてしまう方がいます。エプロン、拭きやすい床、テーブルの覆い。環境を整えて、こぼれても平気な状態にしておけば、気にせず食べられます。
食事介助は、1回に30分以上かかることがあります。それが1日3回、毎日続きます。介助する側の負担は、外から見えているより はるかに重いものです。
まず、時間がかかることを前提にしてください。急がせる原因の多くは、介助する側の時間の余裕のなさです。次の予定が詰まっていると、無意識に早くしようとします。食事の時間には余裕を取ってください。
次に、一人で全部を担わないことです。家族のあいだで分担する、デイサービスで昼食を取ってもらう、訪問介護を使う。1日3回すべてを同じ人が担う形は、続きません。
調理の負担も減らしてください。介助に時間がかかるうえに、やわらかい食事を毎回作るのは大きな負担です。市販の介護食、レトルト、冷凍、配食サービス。使えるものを使ってください。作ることに力を使い果たすと、介助する余力が残りません。
そして、うまくいかない日があっても、自分を責めないでください。むせる、食べない、時間がかかる。これらは介助のしかたが悪いからとは限りません。体調、薬、病気の進み方によって変わります。続くようなら、専門職に相談してください。ケアマネジャー、訪問看護師、言語聴覚士。相談することで、方法が見つかることがあります。
介助の技術を身につけると、上手に食べさせられるようになります。しかし、そこで止まってはいけません。介助は、減らしていくことを目指すものです。
全介助のように見える方でも、部分的にはできることがあります。スプーンを口に運ぶことはできなくても、口を開けることはできる。コップは持てなくても、支えれば飲める。できる部分を見つけて、そこは本人にやってもらってください。
前半は自分で、疲れてきた後半は介助する。この形が現実的です。最初から全部を介助すると、残っている力まで使われなくなり、実際に失われていきます。使わない機能は衰えるという原則は、食べる動作にも当てはまります。
こぼすこと、時間がかかることを理由に介助に切り替えないでください。こぼすなら、こぼれてもよい環境を作ればよいだけです。拭きやすい床、エプロン、テーブルの覆い。環境で解決できることを、介助で解決しないでください。
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