「のどが渇いた」では遅い — 脱水を防ぐ水分補給の習慣づくり
脱水とは、体内の水分量が正常値を下回った状態です。軽度でもめまい・倦怠感・頭痛を引き起こし、重度になると意識障害や腎不全、最悪の場合は死亡に至ることもある深刻な状態です。
高齢者は以下の理由から、特に脱水のリスクが高くなっています。
人間の体は毎日約2,500mLの水分を失っています。これは尿(約1,500mL)、便(約100mL)、呼気と皮膚からの蒸発(不感蒸泄:約900mL)の合計です。夏場や運動時はこれに発汗が加わります。
| 摂取源 | おおよその量 | 割合 |
|---|---|---|
| 飲料水(お茶・水・その他の飲み物) | 約1,200mL | 約50% |
| 食事に含まれる水分 | 約1,000mL | 約40% |
| 代謝水(栄養素の代謝で生成) | 約300mL | 約10% |
つまり、1日に飲み物として約1,200mL(コップ6〜8杯程度)の水分を摂取する必要があります。ただし、食事量が少ない高齢者は食事からの水分摂取が減るため、飲料水でより多くの水分を補う必要があります。
「のどが渇いてから飲む」のでは遅すぎます。のどの渇きを感じる前に、時間を決めて定期的に水分を摂る「時間飲み」の習慣をつけることが大切です。
| タイミング | 水分量 | ポイント |
|---|---|---|
| 起床時 | 200mL | 睡眠中に失われた水分を補給。常温の水がおすすめ |
| 朝食時 | 200mL | 味噌汁やお茶で食事と一緒に |
| 午前10時 | 150mL | お茶の時間に。おやつと一緒に |
| 昼食時 | 200mL | 汁物を1品つけると効果的 |
| 午後3時 | 150mL | 午後のおやつタイムに。麦茶や牛乳も良い |
| 夕食時 | 200mL | 味噌汁やスープで水分補給 |
| 入浴前 | 100mL | 入浴中の発汗に備えて |
| 就寝前 | 100mL | 夜間の脱水を防ぐ(飲みすぎは夜間頻尿の原因に) |
合計で約1,300mL。食事からの水分と合わせて、1日の必要量をカバーできます。
1日の水分の約40%は食事から摂取されています。特に高齢者にとって、汁物(味噌汁・スープ・すまし汁)は最も効果的な食事からの水分補給源です。
汁物以外にも、水分含有量の高い食品を意識的に取り入れましょう。
以下の症状が見られたら、脱水が進行している可能性があります。すぐに水分補給を行い、改善しない場合は医療機関を受診してください。
暑い時期だけの問題ではありません。
寒くなると、喉の渇きを感じにくくなります。飲む量が自然に減ります。本人に自覚がありません。
そして、暖房をつけると、空気が乾きます。息をするだけで、水分が出ていきます。気づかないうちに減ります。
厚着をして汗をかいていることもあります。下着が湿っていないか、確かめてください。本人は暑さを感じていない場合があります。
温かい飲み物なら、冬でも続けられます。白湯、番茶、スープ。体も温まります。
最も多い理由が、これです。
夜中に起きたくない、外出先で困りたくない。だから飲まない、という方がいます。気持ちは分かりますが、危険です。
そして、失敗したくないという気持ちも、控える方向に働きます。本人が言い出しにくい部分です。周囲が察してください。
飲む時間を、前半に寄せる方法があります。朝から夕方までに多めに飲み、夜は控えめにする。夜中の回数が減ります。
トイレに行きやすい環境にすることも、対策になります。夜の廊下を明るくする、近くに手すりをつける。行きやすければ、控えなくなります。
一度に飲んでも、体に残りません。
大量に飲むと、そのまま出ていきます。少しずつ、回数を分けてください。そのほうが体に留まります。
そして、一度にたくさん飲むのは、体への負担にもなります。心臓や腎臓に持病がある方は、特に注意が要ります。医師の指示を守ってください。
手元に置いておくことが、最も効きます。いつも座る場所のそばに、コップを置いてください。取りに行く手間があると、飲まなくなります。
目に見える容器を使ってください。どれだけ飲んだかが分かります。一日分を入れておく方法もあります。
飲み物だけで足りるわけではありません。
食事の量が減ると、そのぶん水分も減ります。食べない日は、飲む量を増やす必要があります。ここが見落とされます。
そして、ご飯やお粥にも、水分が含まれます。パンだけの食事より、粥のほうが取れます。形で変わります。
果物にも多く含まれます。みかん、いちご、梨、すいか。季節のものを取り入れてください。
ゼリーや、とろみのある形も使えます。飲み込みにくい方には、こちらのほうが安全です。水よりむせにくくなります。
ここは特に注意が要ります。
水は、最もむせやすい飲み物です。さらさらしていて、速く流れます。飲み込むのが間に合いません。
とろみをつけると、ゆっくり流れます。むせにくくなります。どの濃さにするかは、指示を受けてください。
そして、濃くしすぎないでください。飲みにくくなり、量が減ります。適した濃さがあります。
判断は、言語聴覚士や医師に確かめてください。家族の判断で決めないでください。詰まらせる危険があります。
失われる量が急に増える場面です。
熱が出たとき、下痢が続くとき、吐いたとき。普段より多く失われます。飲む量を増やしてください。
そして、こういうときほど、飲む気力が落ちます。悪い方に回ります。周囲が声をかけてください。
飲めない状態が続くなら、受診してください。点滴が必要な場合があります。家で粘らないでください。
塩分も一緒に失われます。水だけでは戻りません。どうすればよいかは、医師に確かめてください。
飲んでいる薬によって、事情が変わります。
水分を出す働きのある薬があります。飲んでいる方は、失われる量が増えます。医師の指示を確かめてください。
そして、逆に、水分を制限されている方もいます。心臓や腎臓の状態によります。この記事の一般的な話より、指示が優先されます。
自己判断で増やしたり減らしたりしないでください。体に負担がかかります。必ず医師に確かめてください。
お薬手帳を、受診のときに持っていってください。飲んでいるものが正確に伝わります。忘れないでください。
本人だけでは分かりません。
飲んだ量を、紙に書いてください。一日にどれだけ飲んだかが見えます。頭では覚えていられません。
そして、ペットボトルを使う方法があります。一日分を一本にして、朝から減らしていく。残っていれば、足りていないと分かります。
訪問する事業者にも、伝えておいてください。気づいた変化を知らせてもらえる形にしてください。訪問介護、通所、配食。
離れて暮らす家族は、電話で聞いてください。「水を飲んでいる」と答えても、量は分かりません。具体的に聞いてください。
最も対応が難しい場面です。
飲んだことを忘れる、渇きを訴えられない。本人からの申告が当てになりません。周囲が管理する必要があります。
そして、勧めても飲まないことがあります。無理に飲ませると、むせます。好みのものを探してください。
甘い飲み物なら飲む、という方もいます。糖の量に指示がある方は、確かめてください。ない方なら、飲めるものを優先してください。
ゼリーや果物なら口にする場合もあります。形を変えると、受け入れられることがあります。一つの方法で諦めないでください。
最後に、判断の目安です。
ぼんやりしている、応答が鈍い、いつもと様子が違う。これらが見えたら、様子を見ないでください。すぐに連絡してください。
そして、尿の回数や色も手がかりになります。回数が減った、色が濃い。受診のときに伝えてください。
高齢の方では、進みが速くなることがあります。朝は元気でも、夕方に変わることがあります。早めに動いてください。
迷ったときは、連絡してください。何もなければ、それで構いません。遅れるほうが困ります。
最後に、続けるための具体的な形をお伝えします。
「気づいたときに飲む」では、忘れます。行動と結びつけてください。起きたとき、薬を飲むとき、食事の前後、お風呂の前後、寝る前。
この区切りごとに一杯ずつ飲むだけで、一日の量はかなり確保できます。意識しなくても積み上がる形にしてください。意志の力に頼ると続きません。
そして、家族が声をかけるときも、この区切りを使ってください。「水を飲んで」ではなく「薬と一緒に飲んで」と言うほうが、行動に移りやすくなります。言い方ひとつで変わります。
どれくらい飲めばよいかは、体の状態で変わります。心臓や腎臓に持病のある方は、必ず医師の指示を確かめてください。この記事の一般的な話より、指示が優先されます。
高齢の方は「のどが渇いた」と言いません。 感じにくくなっているうえ、遠慮もあります。 言葉ではなく体を見てください。
| 見るところ | 脱水のときの様子 |
|---|---|
| 口の中 | 舌が乾いて、しゃべりにくそう。舌の表面に唾液の照りが無い |
| 脇の下 | 指を入れても乾いている(ふつうは湿っている) |
| 手の甲の皮膚 | つまんで離しても、しわがすぐ戻らない |
| 尿 | 色が濃い。回数が減った。半日以上出ていない |
| 様子 | いつもよりぼんやりしている。急に元気がない。眠ってばかりいる |
いちばん見落とされるのが最後の1つです。 高齢の方の脱水は、まず「なんとなく元気がない」という形で出ます。 認知症が進んだ、年のせい、と受け取られて、そのまま数日たつことがあります。 急に様子が変わったら、まず水分を疑ってください。
飲みものなら何でも同じ、ではありません。 失っているものが水だけなのか、塩分も一緒なのかで選ぶものが変わります。
| 向いている場面 | 気をつけること | |
|---|---|---|
| 水・麦茶 | ふだんの水分補給。いちばん基本 | 汗を大量にかいたあと、これだけだと塩分が薄まる |
| 味噌汁・スープ | 食事から水分と塩分を一緒に取る | 塩分制限のある方は回数を決める |
| スポーツドリンク | 汗をかいたあと。飲みやすい | 糖分が多い。糖尿病の方は主治医に確かめる |
| 経口補水液 | 下痢・嘔吐・発熱のとき。脱水を疑うとき | 塩分が多い。心臓・腎臓の病気がある方は指示を受けてから |
| コーヒー・紅茶・緑茶 | 楽しみとして | 飲めば水分にはなるが、これだけに頼らない |
| ビール・日本酒 | 水分としては数えない | 飲んだぶん以上に尿として出ていく |
飲みものが進まない方には、食べる水分が効きます。 ゼリー、茶碗蒸し、雑炊、果物、アイス。とろみを付けると飲み込みやすくなる方もいます (水分にとろみを付ける)。 当店の献立に汁物を必ず添えているのは、 食事のたびに150ml前後の水分が確実に入るからです。 心臓や腎臓の病気で水分制限がある方は、上の話より主治医の指示が優先します (心臓病と食事)。
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