木の桶は、いちばん短い板の高さまでしか水が入らない
たんぱく質は20種類のアミノ酸でできています。そのうち9種類は体内で作れず、食事から摂る必要があります。これを必須アミノ酸と呼びます。
重要なのは、1つでも足りないと、そこで頭打ちになるということです。桶の板が1枚短ければ、そこまでしか水が入らないのと同じです。
この考え方を数値にしたのがアミノ酸スコアです。100に近いほど、必要なアミノ酸がそろっています。
| 食品 | スコア | 不足しがちなアミノ酸 |
|---|---|---|
| 卵、牛乳、肉、魚 | 100 | — |
| 大豆、豆腐、納豆 | 100 | —(かつては低く評価されていましたが、現在の基準では100) |
| 精白米 | 約65 | リジン |
| 小麦(食パン) | 約44 | リジン |
| とうもろこし | 約31 | リジン、トリプトファン |
穀類はリジンが不足します。そして、それを補うのが大豆です。大豆はリジンを多く含みます。
ごはんと味噌汁、ごはんと納豆、うどんと油揚げ。日本の伝統的な組み合わせは、アミノ酸を補い合う形になっています。これを補足効果と呼びます。
必須アミノ酸のうち、ロイシンは筋肉の合成を始めるスイッチの役割を持ちます。高齢者では、若い人より多くのロイシンがないと筋肉の合成が始まりにくいことが分かっています(同化抵抗性)。
ロイシンが多い食品:
目安として、1食あたりたんぱく質20g前後を摂ると、筋肉の合成が起きやすいとされます。手のひら1枚分の肉や魚、卵2個、豆腐半丁と納豆1パック、といった量です。
ここが実務上いちばん効く点です。日本人の高齢者は、朝食のたんぱく質が極端に少ない傾向があります。
| よくある配分 | 望ましい配分 | |
|---|---|---|
| 朝 | 5g(ごはんと味噌汁と漬物) | 20g(+卵、納豆、牛乳) |
| 昼 | 15g | 20g |
| 夕 | 40g | 20g |
| 合計 | 60g | 60g |
合計は同じでも、筋肉になる量は違います。1食に大量に摂っても、使われずに余った分はエネルギーとして消費されるだけです。朝にたんぱく質を足すことが、最も効果の大きい改善です。
配食のふれ愛 太子店の献立は、主菜でたんぱく質を確保する構成で組んでいます。詳しくは高齢者とたんぱく質、大豆たんぱくの力をご覧ください。
年齢を重ねると、若い頃と同じ量では足りなくなると言われています。理由があります。
体が材料を使う効率が落ちるためです。同じ量を食べても、筋肉として組み立てられる分が少なくなるとされています。だからこそ、若い頃より意識して取る必要があるという考え方が示されています。
そして、筋肉が減ることの影響が大きいためです。立ち上がる、歩く、階段を上る。日常の動作は、すべて筋肉の仕事です。減れば、動けなくなり、動かないことでさらに減ります。
いったんこの流れに入ると、戻すのに時間がかかります。入院や骨折で数週間動かなかっただけで、大きく落ちることがあります。そこから戻すには、数か月を要することがあります。
腎臓の病気で制限の指示が出ている方は、この話は当てはまりません。指示された量を守ってください。一般向けの「たんぱく質を増やしましょう」を、そのまま当てはめないでください。
1日の合計が足りていても、偏っていると効率が落ちると言われています。
朝はパンと茶だけ、昼は麺類、夜だけ肉と魚。この形は、高齢の方の食生活でよく見られます。合計では足りていても、朝と昼にほとんど入っていません。
体は、たんぱく質を長く蓄えておけないとされています。まとめて取っても、余った分は使われずに処理されると言われています。だからこそ、毎食に分けることに意味があります。
朝に何を足すかが、最も改善しやすい点です。卵1個、納豆1パック、牛乳1杯、ヨーグルト1個。どれも調理の手間がなく、朝の食卓に置きやすいものです。
昼も同じです。麺類だけで済ませるなら、卵を落とす、豆腐を添える、缶詰を1品足す。これだけで、内容が変わります。
肉が噛みにくくなると、たんぱく質の量が一気に落ちます。代わりになる形があります。
ひき肉は、最も使いやすい形です。そぼろ、つくね、ハンバーグ、あんかけ。やわらかく、まとまりがあり、飲み込みやすい形にできます。牛、豚、鶏のいずれでも使えます。
卵は、調理の幅が広く、やわらかい食品です。茶碗蒸し、卵とじ、オムレツ、温泉卵。手間が少なく、消化にも負担が少ない部類です。
豆腐と豆乳も、そのまま食べられます。冷奴、湯豆腐、味噌汁の具、あんかけ。やわらかく、値段も安く、日常的に使えます。
魚は缶詰が便利です。骨までやわらかく、調理が不要で、日持ちします。そのまま食べる、和える、汁ごと使う。手間がかかりません。
調理の手間がなく、たんぱく質が確実に取れるという点で、乳製品は有用です。
牛乳、ヨーグルト、チーズ。買ってきて、そのまま食べられます。調理も片づけも不要です。朝食に1品足すなら、これが最も簡単な方法です。
カルシウムも同時に取れます。骨を保つうえでも、意味があります。高齢の方では、骨折が生活を大きく変える出来事になるため、この点も重要です。
牛乳を飲むとお腹がゆるくなる方がいます。その場合は、ヨーグルトやチーズなら大丈夫なことがあります。温めて少量ずつ飲む、という方法もあります。
そして、食が細い方には、飲む形が向いています。噛まなくてよく、少量でエネルギーとたんぱく質が取れます。食事の合間に飲む習慣を作ると、1日の合計が上がります。
動物性の食品を控えている方から、この質問がよく出ます。
大豆製品は、植物性の中では優れた食品とされています。豆腐、納豆、豆乳、厚揚げ、きなこ。やわらかく、調理の手間も少なく、日常的に使えます。
ただし、植物性の食品だけで必要な量を取ろうとすると、食べる量が多くなります。食が細い方には、この点が負担になります。少ない量で確実に取れるという意味では、動物性の食品に利点があります。
そして、動物性の食品にしか含まれにくい栄養素があります。血液や神経に関わるものが知られています。長期間まったく食べない生活では、不足が起きることがあります。
信条や事情で動物性を控えている方は、管理栄養士に相談してください。組み合わせ方や、補う方法があります。自己判断で続けるより、確認したほうが安全です。
たんぱく質については、腎臓の状態によって方針が完全に変わります。
腎臓の働きが落ちている方では、処理しきれずに負担になることがあります。そのため、量を制限するよう指示されることがあります。一般向けの情報を、そのまま当てはめないでください。
ただし、制限しすぎると筋肉が減ります。どこまで制限するかは、その方の状態によって細かく決められます。自己判断で減らさず、医師と管理栄養士の指示に従ってください。
透析を受けている方では、逆に多く必要になる場合があります。治療の段階によって、方針が変わります。いまの段階でどうすべきかを、確かめてください。
そして、指示は状態に応じて変わります。何年も前に受けた説明のまま続けている方がいます。定期の受診のときに、いまの方針でよいかを聞いてください。
体調を崩したあとは、筋肉が大きく落ちています。この時期の食事が、その後を左右します。
数週間動かなかっただけで、筋肉はかなり減ると言われています。そして、高齢の方では、放っておいても自然には戻りません。意識して食べ、意識して動かす必要があります。
ただし、この時期は食欲も落ちています。量が食べられないなら、少量で内容の濃いものを選んでください。卵、豆腐、乳製品、栄養補助食品。
そして、体を動かすことと組み合わせてください。食べるだけでは筋肉になりにくいとされています。座る、立つ、歩く。無理のない範囲で動かしてください。
退院のときには、食事の指示を確かめてください。どんな形のものを、どれくらい食べるべきか。この確認がないまま帰宅して、量が落ちる例が多くあります。退院時の調整については退院時の調整にまとめています。
細かい計算をしなくても、確かめる方法があります。
毎食、主菜が入っているかを見てください。肉、魚、卵、豆腐、乳製品。このどれかが、毎食の食卓にあれば、大きく不足することは考えにくいものです。朝食に何もない方が、最も多い形です。
そして、体重を月に一度測ってください。落ちていれば、量が足りていません。細かい栄養素の話より、この数字のほうが確実です。
握力や歩く速さの変化も手がかりになります。ペットボトルの蓋が開けにくくなった、横断歩道を渡りきれなくなった。これらは、筋肉が減っているしるしである場合があります。
気になることがあれば、管理栄養士に相談してください。1週間分の食事を書き出して持っていけば、具体的な助言が得られます。相談先が分からなければ、ケアマネジャーか地域包括支援センターに聞いてください。
たんぱく質を毎食に分けようとすると、調理の回数が増えます。負担を減らす方法があります。
まとめて作って小分けにする。そぼろ、煮豚、ゆで卵、魚の煮付け。冷蔵か冷凍で保存すれば、数日分になります。毎食作る必要がなくなります。
調理の要らない食品を常備しておくのも有効です。魚の缶詰、豆腐、納豆、ヨーグルト、チーズ、牛乳。疲れている日でも、1品足せます。
冷凍食品も選択肢です。ハンバーグ、魚のフライ、肉じゃが。加熱するだけで、主菜が用意できます。手作りでなければならない理由はありません。
そして、作ること自体が難しくなっているなら、外部の力を使ってください。配食を使えば、主菜が入った一食分が届きます。無理に自炊を続けて食事の回数が減るより、確実です。事業者の見方は配食サービスの確認12項目にまとめています。
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