同じ肝臓の病気でも、脂肪肝と肝硬変では正反対のことをする
「肝臓が悪い」と言われたとき、食事の方針は病気の段階でまったく変わります。
| 段階 | 食事の方向 |
|---|---|
| 脂肪肝(MASLD/NAFLD) | 減らす。体重を落とす。糖質・脂質・アルコールを控える |
| 慢性肝炎 | バランスのよい食事。過不足なく |
| 肝硬変(代償期) | エネルギーとたんぱく質を確保。就寝前補食 |
| 肝硬変(非代償期・腹水や脳症あり) | 塩分制限。たんぱく質は医師の指示に従う |
自己判断で決められる領域ではありません。血液検査の値と合併症の有無を見て、主治医と管理栄養士が方針を決めます。ここではその方針を理解するための説明をします。
飲酒によらない脂肪肝は、内臓脂肪と結びついています。体重を7%落とすと、肝臓の脂肪と炎症が改善するという報告があります。
高齢者では、減量がサルコペニアを招かないよう、たんぱく質はしっかり保ちながら行います。
肝臓はグリコーゲンを貯蔵する臓器です。肝硬変ではこの貯蔵が減るため、夜寝ている間の10時間ほどで、エネルギー不足の状態になります。健康な人が2〜3日絶食したのに相当するとも言われます。
そこで行われるのが就寝前補食(LES:Late Evening Snack)です。
分岐鎖アミノ酸(バリン・ロイシン・イソロイシン)の製剤が処方されることがあります。処方があるなら、それを優先してください。
腹水やむくみが出ている場合、塩分制限が中心になります。1日5〜7g、場合によってはそれ以下の指示が出ます。
減塩の実際は高齢者の高血圧と食事で扱っています。だしを濃く、酸味と香りを使う、汁物を減らす、といった方法です。
水分制限がかかる場合もありますが、これは血液検査(ナトリウム値)を見ての判断です。自己判断で水分を減らさないでください。
ぼんやりする、日付が分からない、手が羽ばたくように震える(羽ばたき振戦)といった症状が出た場合、肝性脳症が疑われます。すぐに受診してください。
この状態ではたんぱく質の量が調整されますが、制限しすぎると栄養状態が悪化して逆効果になることが分かっており、現在は一律に大幅制限はしません。植物性たんぱく質(大豆製品)や分岐鎖アミノ酸を活かす方法がとられます。必ず主治医の指示に従ってください。
関連して大豆たんぱくの力、高齢者とたんぱく質もご覧ください。
脂肪肝は、体重を落とすことで改善が見込める状態です。ただし、どれだけ落とすかの目安を知らないまま始めると、続かないか、行きすぎるかのどちらかになります。
目安は、いまの体重の5〜7%です。70kgの方なら3.5〜5kg、60kgなら3〜4kgです。この程度で数値が動くことが分かっており、10kg落とす必要はありません。期間は半年ほどをかけて、月に1kg前後のゆっくりした落とし方にします。急に落とすと、かえって肝臓に負担がかかります。
減らすところは決まっています。甘い飲みもの、菓子、揚げもの、酒、そして主食の食べすぎです。とくに果糖を含む飲みものは、肝臓に脂肪をためる働きが強いことが知られています。ジュース、清涼飲料水、加糖のコーヒー、スポーツ飲料。これをやめるだけで体重が動く方が少なくありません。
逆に、減らしてはいけないのがたんぱく質です。肉、魚、卵、豆腐、乳製品を削ると、筋肉が落ちます。筋肉は糖を使ってくれる場所なので、減らすと脂肪肝がかえって進みます。減らすのは糖と脂と酒、保つのはたんぱく質。この線引きを間違えないでください。
運動も欠かせません。歩くだけでも効きます。1日20〜30分を目安に、続けられる形で始めてください。体重が動かなくても、肝臓の脂肪は減ることがあります。
肝硬変が進むと、肝臓に蓄えられる糖が少なくなります。そのため、夜のあいだの絶食が長いと、体が筋肉を分解してエネルギーを作るようになります。これを避けるために、就寝前に軽く食べる方法があります。
量は、200kcal前後が目安です。おにぎり1個、食パン1枚、バナナ1本と牛乳、ビスケット数枚と豆乳、栄養補助食品1本。多く食べる必要はなく、夜間の絶食時間を短くすることが目的です。
時間は、寝る1時間ほど前です。ただし、逆流の症状がある方や、寝つきが悪くなる方は、寝る2時間前に前倒ししてください。食べたあとに歯を磨くことも忘れないでください。
この方法は、すべての方に必要なわけではありません。肝臓の状態によって、必要かどうか、量をどうするかが変わります。血糖の管理をしている方では、内容の調整が要ります。自己判断で始めず、主治医に確かめてから取り入れてください。
また、夜食を足すぶん、日中の食事を減らさないでください。夜食は追加であって、置き換えではありません。1日の合計が減ってしまうと、意味がなくなります。
腹水やむくみがあるときは、塩分の管理が中心になります。指示された量は、多くの場合1日6g未満、状態によってはさらに少ない量になります。この量を守るには、調味料を減らすだけでは足りません。
塩分の多くは、料理にかける分ではなく、加工食品と汁ものから来ています。みそ汁1杯で約1.5g、うどんの汁を全部飲めば約5g、漬物1皿で約1g、干物1枚で約2g、練り製品1切れで約0.5g。汁を残すだけで、1日1〜2gが減ります。
味を保ちながら減らす工夫があります。だしを濃くとる、酢やレモンで酸味を足す、こしょう・しょうが・にんにく・ごまで香りを足す、焼き目をつけて香ばしさを出す。そして、味付けを一品に集中させることです。すべてを薄味にすると食べる気がなくなるので、1品だけしっかり味をつけ、ほかを薄くするほうが続きます。
体重と尿の量を毎日記録してください。急に体重が増えるときは、水がたまっているサインです。1日で1kg以上増えた、足のむくみが強くなった、おなかが張ってきた。こうした変化は、その日のうちに医療機関に伝えてください。
減塩食は作る手間がかかります。負担が続かないときは、減塩の献立に対応した配食を組み合わせる方法もあります。栄養成分と塩分が1食ごとに示されている事業者であれば、残りの食事で調整しやすくなります。
肝臓が悪いと言われると、多くの方が「肝臓に負担をかけないように」と考えます。しかし、この言葉が何を指すのかは曖昧なままになりがちです。安静にすればよいと思って動かなくなり、筋肉が落ちて、かえって状態が悪くなる方がいます。あるいは、食べないほうがよいと思って食事を減らし、栄養が足りなくなる方もいます。実際に避けるべきものと、避ける必要のないものを分けて考えてください。
まず、確実に避けるべきなのは酒です。肝臓の状態がどの段階であっても、飲酒は負担になります。ここは量の議論ではなく、やめるかどうかの話になります。付き合いで飲む機会がある方は、飲まないことを周囲に伝えておくほうが、その場で断り続けるより楽です。次に、市販薬とサプリメントです。肝臓は薬を処理する臓器なので、飲むものが増えるほど仕事が増えます。健康によいとされるものでも、肝臓に負担をかけるものがあります。飲んでいるものをすべて医師に見せて、続けてよいかを確かめてください。
一方で、避ける必要のないものもあります。たんぱく質は、以前は肝臓に悪いと考えられていた時期がありますが、いまは段階によって方針が違います。肝性脳症のない方であれば、むしろしっかり取ることが勧められます。「肝臓が悪いから肉を減らす」という古い考え方のまま食事を組んでいる方は、いちど主治医に確かめてください。筋肉が落ちると、体の中でアンモニアを処理する場所が減り、かえって具合が悪くなることがあります。
運動についても同じです。安静が必要な時期はありますが、状態が落ち着いていれば、歩くことや軽い体操は勧められます。動かないことで筋肉が落ちるほうが、長い目で見て問題になります。どこまで動いてよいかは、その方の状態で決まるので、受診のときに具体的に聞いてください。「無理をしない範囲で」という答えでは、判断ができません。1日何分歩いてよいか、階段はどうか、荷物はどれくらい持ってよいか。具体的に聞けば、具体的な答えが返ってきます。
肝臓の検査には多くの項目があり、どれを見ればよいのか分からないという声をよく聞きます。すべてを理解する必要はありませんが、自分の状態を追いかけるうえで見ておくとよい項目があります。医師に説明を求めるときの手がかりにもなります。
肝臓の細胞が壊れている程度を表す項目、肝臓が働けている程度を表す項目、そして栄養状態を表す項目。この3つの系統があります。前者だけを見て一喜一憂する方が多いのですが、長い目で見るときに大事なのは、肝臓が働けているかどうかと、栄養が足りているかどうかのほうです。細胞が壊れる程度は、その日の体調でも動きます。
数値の説明を受けるときは、3つのことを聞いてください。いまどの段階にあるのか。前回と比べて良くなっているのか、悪くなっているのか、変わらないのか。そして、食事と生活で何をすればよいのか。この3つを聞いて紙に書いて帰れば、家で迷わずに済みます。診察室では分かったつもりでも、家に帰ると忘れるものです。
また、検査の間隔も確かめてください。次はいつ受けるのか、どの項目を見るのか。定期的に受けることで変化が分かります。1回の数値だけを見ても、良くなっているのか悪くなっているのかは判断できません。記録を自分でも残しておくと、傾向が見えます。手帳に日付と主な数値を書くだけで十分です。
肝臓の病気は、外から見て分かりにくいという特徴があります。本人はだるさや食欲のなさを感じていても、周囲からは元気に見えることがあります。逆に、状態が進んでいるのに本人が自覚していないこともあります。家族が見ておくべきところを挙げます。
体重の変化は、最も分かりやすい手がかりです。ただし、腹水がたまると体重が増えるため、体重が増えたから良くなったとは限りません。おなかの張り、足のむくみ、靴がきつくなった、ズボンのウエストが変わった。こうした変化と合わせて見てください。急に体重が増えるときは、水がたまっている可能性があります。
次に、意識と受け答えの様子です。日中に眠りがちになる、話のつじつまが合わない、手が細かく震える、怒りっぽくなる、昼と夜が逆になる。これらは肝臓の状態に関わる変化として知られており、本人は気づきません。いつもと違うと感じたら、その日のうちに医療機関に連絡してください。「様子を見る」で済ませないでください。
そして、食事の量です。食欲が落ちていることを本人が言わないことがあります。作った量ではなく、実際に食べた量を見てください。半分残す日が続いているなら、栄養が足りていません。無理に食べさせるのではなく、少量で栄養の入るものに切り替える、回数を増やす、といった工夫に切り替えてください。食べられないことを責める形になると、食卓が苦痛になり、さらに食べなくなります。
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