夏の暑さで体力が落ちやすい高齢者のための栄養補給ガイド
夏バテとは、暑さによって自律神経のバランスが乱れ、体のだるさ・食欲不振・睡眠障害などの不調が現れる状態です。高齢者は若い世代に比べて体温調節機能が低下しているため、夏バテに陥りやすい傾向があります。
暑い環境では、体は汗をかいて体温を下げようとします。この過程で水分やミネラル(ナトリウム・カリウム)が失われます。同時に、消化管への血流が減少し、胃腸の機能が低下します。さらに、冷房との温度差による自律神経の乱れが加わると、以下のような悪循環が生じます。
高齢者は汗腺の機能低下により暑さを感じにくく、脱水に気づきにくい特徴があります。また、もともと食事量が少ない方は、夏バテによる食欲低下で低栄養に直結するリスクが高く、注意が必要です。
夏バテ予防のカギとなるのが、エネルギー代謝を助けるビタミンB1です。ビタミンB1は糖質をエネルギーに変換する過程で不可欠な補酵素として働きます。暑い季節はそうめん・冷やし中華・アイスクリームなど糖質中心の食事に偏りがちですが、ビタミンB1が不足すると糖質を効率よくエネルギーに変えられず、疲労物質(乳酸)が蓄積して倦怠感が増します。
| 食品 | 100gあたりのビタミンB1量 |
|---|---|
| 豚ヒレ肉 | 1.32mg |
| 豚もも肉 | 0.96mg |
| うなぎ蒲焼 | 0.75mg |
| 玄米ごはん | 0.16mg |
| 枝豆 | 0.31mg |
1日の推奨量は成人男性で1.4mg、成人女性で1.1mgです。豚肉は牛肉や鶏肉の約10倍のビタミンB1を含んでおり、夏バテ対策に最適な食材です。にんにく・ねぎ・にらに含まれるアリシンはビタミンB1の吸収を高めるため、組み合わせて摂ると効果的です。
夏バテで食欲が落ちているときこそ、食欲を刺激する食材や調理法を取り入れましょう。
酢・梅干し・柑橘類の酸味には、唾液や胃酸の分泌を促し、食欲を刺激する効果があります。また、クエン酸にはエネルギー代謝を円滑にする働きもあります。
しょうがに含まれるジンゲロールやショウガオールは、胃腸の血流を改善し、消化機能を活性化します。冷や奴にすりおろし生姜を添えたり、しょうが焼きにしたりと、さまざまな料理に活用できます。
大葉・みょうが・ねぎ・三つ葉などの香味野菜は、少量でも香りと風味が食欲を刺激します。そうめんの薬味だけでなく、サラダや和え物にも積極的に取り入れましょう。
暑いからと冷たい食べ物・飲み物ばかりを摂ると、胃腸が冷えて消化機能がさらに低下します。これが夏バテを悪化させる大きな原因のひとつです。
配食のふれ愛では、夏場でも温かいお弁当をお届けしています。管理栄養士が夏場の栄養バランスに配慮した献立を作成し、ビタミンB1を多く含む豚肉料理や、酢を使ったさっぱりとしたおかずを取り入れています。
「食欲がない」と一言で言っても、原因は一つではありません。分けて考えると、手の打ちようが見えてきます。
暑さそのものによる場合があります。体温を下げることに体が力を使い、消化にまわす余力が減ります。この場合は、室温を下げれば食べられるようになることがあります。
水分の取りすぎで、胃がふくれている場合もあります。冷たい飲み物を食事の直前に大量に取ると、それだけで満腹になります。飲む時間をずらすだけで、食べられる量が変わります。
そして、体調を崩している場合があります。数日で戻らない、体重が減っている、熱がある。この場合は暑さのせいにせず、医師に相談してください。
薬の影響で食欲が落ちることもあります。新しい薬が始まった時期と重なっていないかを確かめてください。自分で中断せず、処方した医師か薬剤師に相談してください。
量が入らないなら、回数を増やす形に切り替えてください。
三回にこだわらず、五回に分ける方法があります。朝、午前の間食、昼、午後の間食、夕。一回の量が減れば、負担が軽くなります。
間食は、菓子でなくて構いません。牛乳、ヨーグルト、豆腐、卵、果物。体をつくる材料が入るものを選んでください。
そして、朝のうちに主なものを食べる形にしてください。暑さが増す午後より、涼しい時間帯のほうが食べられます。一日の中で、食べやすい時間に寄せてください。
食べられない日が続くときは、無理に全部そろえようとしないでください。まずは体をつくる材料と、水分を確保することです。完璧な献立より、続くことを優先してください。
夏に最も起きやすいのが、麺類だけで一食を終える形です。
麺は、体を動かす燃料にはなりますが、体をつくる材料がほとんど入っていません。これが続くと、筋肉が落ちます。暑い時期に体力が落ちる大きな原因です。
卵、ハム、豆腐、ツナ、しらす。のせるだけのもので構いません。手間をかけずに、材料を足せます。
そして、汁物や小鉢を一品つけてください。野菜と、体をつくる材料の両方が入ります。作り置きできるものを用意しておくと続きます。
麺の日を減らす必要はありません。麺に何を足すかを決めておくだけで、内容が変わります。
汗をかく時期は、考え方が変わる場面があります。
汗をかくと、水分と一緒に体の塩分が失われます。水だけを大量に飲むと、体の中の濃さが崩れることがあります。だるさや足のつりとして出ることがあります。
ただし、控えるよう医師から指示を受けている方は、その指示が優先されます。自己判断で増やさないでください。暑い時期にどうすればよいかを、受診のときに確かめてください。
普段どおりに食事が取れているなら、多くの場合、食事から入ります。汁物や梅干しなど、いつもの食事の中にあります。特別なものを足す必要はありません。
大量に汗をかいた、食事が取れていない。この場合は、経口補水を目的とした飲料が役に立つことがあります。使い方は、かかりつけに確かめてください。
暑い時期は、食中毒の危険が上がります。
作ってから食べるまでの時間を、短くしてください。常温に置く時間が、最も危険な時間です。すぐ食べないなら、冷蔵庫に入れてください。
作り置きは、少量ずつに分けてください。大きな器のまま冷ますと、中心が冷えるまでに時間がかかります。浅い容器に移してください。
そして、匂いや見た目で判断できないことがあります。「もったいない」で食べると、寝込むことになります。迷ったら処分してください。
高齢の方は、体の抵抗する力が落ちていることがあります。同じものを食べても、重くなることがあります。若い頃の感覚で判断しないでください。
夜眠れないと、日中の食欲に響きます。
寝室の温度を確かめてください。暑さで眠りが浅くなると、疲れが取れません。就寝中も冷房を使う判断が要る時期です。
そして、夕食の時間が遅すぎないかを見てください。寝る直前に食べると、眠りが浅くなります。就寝の2〜3時間前までが目安です。
日中に体を動かす機会が減ると、夜に眠くなりません。暑さで外に出ないことが、昼夜の逆転につながります。涼しい時間帯に、少しでも動いてください。
眠れない状態が続くときは、我慢せず医師に相談してください。睡眠の問題は、食事と体力の両方に影響します。
離れて暮らしている場合、この時期は確認の回数を増やしてください。
室温を聞いてください。「暑くない?」ではなく「温度計は何度?」と尋ねてください。感覚は当てになりません。
今日何を食べたかを聞いてください。答えられない、同じものが続いている、麺だけ。ここに変化が出ます。
そして、訪ねたときは冷蔵庫を見てください。減っていない、古いものが残っている、飲み物ばかり。言葉より正確です。
気になる変化があれば、ケアマネジャーか地域包括支援センターに相談してください。夏を越せるかどうかは、この時期の手当てで決まります。
暑さが引いたあとに、疲れが表に出ることがあります。
夏の間に落ちた体重は、放っておいても戻りません。食べる量が減った期間が長いほど、筋肉が落ちています。涼しくなったら、意識して量を戻してください。
体をつくる材料を、毎食入れてください。魚、肉、卵、大豆製品、乳製品。この時期に戻さないと、冬に体力が持ちません。
そして、動く量も戻してください。暑さで外出を控えていた期間が長いと、足腰が弱っています。急に始めず、少しずつ増やしてください。
体重を測る習慣をつけてください。週に一度で構いません。減り続けているなら、医師か管理栄養士に相談してください。
食べられないのではなく、作れないという場合があります。
暑い台所に立つこと自体が、負担になります。火を使う時間を減らす工夫が要ります。電子レンジで済む調理や、火を使わない献立に切り替えてください。
買い物に出るのが負担な場合もあります。重い荷物を持って、暑い中を歩くのは危険です。届けてもらう形を検討してください。
そして、一人分を作るのが難しいという事情もあります。材料が余る、品数がそろわない。結果として、簡単なもので済ませることになります。
この時期だけ、届けてもらう形を使う方法もあります。栄養の偏りを防ぎ、火を使う負担も減らせます。手渡しなら、様子を見てもらえる利点もあります。
すべてを変えようとすると、続きません。
今日できることは、温度計を目に入る場所に置くことです。暑さは、感覚では分かりません。数字を見る形にしてください。
次に、飲み物を手の届く場所に置いてください。取りに行く形では、回数が減ります。座る場所のそばに置くだけです。
そして、麺だけの食事に、卵か豆腐を足してください。のせるだけで構いません。これだけで、体をつくる材料が入ります。
三つとも、費用も手間もかかりません。続けられることから始めてください。完璧な献立を目指すより、確実です。
夏に体調を崩した高齢の方を見て、ご家族が「夏バテですね」で片づけてしまうことがあります。 ところが同じように見えて、手当てがまったく違う3つが混ざっています。
| 起きていること | 見分けの手がかり | すること | |
|---|---|---|---|
| 夏バテ | 暑さで自律神経と消化の働きが落ちている | 数日〜数週間かけて、だるさと食欲不振が続く | 食事と睡眠を整える。急ぐ必要はない |
| 脱水 | 体の水分と塩分が足りていない | 口の中が乾く、尿が濃く少ない、皮膚をつまむと戻りが遅い、急に元気がない | 水分と塩分をとる。戻らなければ受診。高齢者の脱水を防ぐ |
| 熱中症 | 体温が上がって下がらない | 頭痛・吐き気・体が熱いのに汗が出ない・受け答えがおかしい | すぐ涼しい所へ。意識がはっきりしなければ救急。熱中症を防ぐ食事と水分 |
いちばん危ないのは、脱水を夏バテと思って様子を見てしまうことです。 高齢の方はのどの渇きを感じにくく、トイレを気にして自分から水を控えます。 「食欲がない」の前に「今日どれくらい飲んだか」を確かめてください。
体から出ていく水分は、汗をかかない日でも1日2〜2.5リットルあります。 食事から800〜1,000mlほど入るので、飲みものとして1日1,000〜1,500mlが目安です。 夏はここに汗のぶんが乗ります。
暑い盛りに「今日は何も入らない」という日が来ます。 そこで無理に三食を通そうとすると、次の日も食べられなくなります。 量を分けて、冷たいものと温かいものを交互に置くと通りやすくなります。
| 時間 | 置くもの | ねらい |
|---|---|---|
| 朝(涼しいうち) | いちばんしっかり食べる。卵・豆腐・魚を1品 | 気温が上がる前が最も食べられる。たんぱく質はここで稼ぐ |
| 10時 | 牛乳・ヨーグルト・果物 | 飲みもので水分とたんぱく質を足す |
| 昼 | そうめんなら、卵・ツナ・薬味を必ず乗せる | 麺だけだと糖質しか入らない |
| 15時 | ゼリー・アイス・冷たい甘酒 | 食欲が最も落ちる時間。水分と糖分だけでよい |
| 夕 | 温かい汁物を必ず1杯 | 冷たいものが続いた胃を戻す |
一度に食べられない方の考え方は少量頻回食という考え方に、 食欲が落ちたときの手当ては食欲がないときにまとめてあります。 体重が落ちてきているなら、それは夏バテではなく低栄養の入り口です (低栄養とその対策)。
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