食欲低下の原因を知り、少しずつ「食べる力」を取り戻すために
「最近あまり食べたくない」「食事が楽しくなくなった」。高齢のご家族からこうした声を聞くことは珍しくありません。高齢者の食欲不振は、単なる「好き嫌い」ではなく、複数の身体的・心理的要因が絡み合って起こります。放置すると低栄養やフレイルに直結するため、早めの対策が重要です。
食欲がないときに無理に量を食べる必要はありません。少量でもカロリーとたんぱく質が詰まった食品を選びましょう。卵・チーズ・ヨーグルト・ナッツ類は少量で高栄養です。おかゆにチーズをのせたり、ヨーグルトにはちみつを加えるなど、ひと手間で栄養価を高められます。
1日3回にこだわらず、1日5〜6回に分けて少量ずつ食べる「分食」が効果的です。午前10時と午後3時におやつを取り入れるなど、食べられるときに食べることを優先しましょう。間食にはカステラ・プリン・バナナなど、食べやすくカロリーのあるものがおすすめです。
食事は視覚と嗅覚からも楽しむものです。彩り豊かな盛り付け、季節の食器の使用、温かい料理の湯気や香りが食欲を刺激します。赤(トマト・にんじん)、緑(ほうれん草・ブロッコリー)、黄(卵・かぼちゃ)を意識的に取り入れましょう。
テレビを消して食事に集中する、食卓を明るくする、可能であれば誰かと一緒に食べる。食事の環境を変えるだけで食欲が改善することがあります。研究では、共食(誰かと一緒に食べること)で食事量が約15%増加するというデータもあります。
口の中の問題は食欲不振の大きな原因です。入れ歯の調整、歯科での定期的なチェック、毎食後の口腔ケアを行いましょう。口腔乾燥症の方は、食前に少量の水やお茶で口を潤すと食べやすくなります。唾液の分泌を促すために、食事前に軽い口の体操をすることも有効です。
無理のない範囲で身体を動かすことが、食欲回復への近道です。散歩・ストレッチ・椅子に座っての体操など、10〜15分の軽い運動でも消費エネルギーが増え、自然な空腹感が生まれます。朝の散歩は特に効果的で、日光を浴びることで体内時計がリセットされ、食事のリズムも整います。
亜鉛は味覚を正常に保つために不可欠なミネラルです。高齢者は亜鉛不足になりやすく、味覚障害の原因のひとつとなっています。牡蠣・牛肉・豚レバー・卵・大豆製品に多く含まれています。亜鉛不足が疑われる場合は、医師に相談の上でサプリメントの活用も検討しましょう。
以下のようなサインが見られたら、早めに医師に相談することをおすすめします。食欲不振の背景に、治療が必要な疾患が隠れている可能性があります。
配食のふれ愛では、通常のお弁当よりも量を少なくした「小町」メニューをご用意しています。食欲が落ちている方でも食べきれる量に調整しつつ、栄養バランスはしっかり確保。「少ないけど栄養はある」食事で、食べる自信を取り戻すお手伝いをいたします。
食欲の低下は、多くの不調の最初の合図です。
数日で戻らない、体重が減っている、熱がある。この場合は、年齢のせいにしないでください。受診の対象になります。
そして、痛みが隠れていることがあります。口の中、お腹、背中。本人が訴えないまま、食べる量だけが落ちることがあります。
便通の状態も確かめてください。出ていない期間が続くと、食欲が落ちます。本人は関係ないと考えていることがあります。
気持ちの落ち込みも、食欲として表れます。眠れない、何もする気が起きないが重なるなら、医師に相談してください。高齢の方でも起こります。
見落とされやすい原因です。
新しい薬が始まった時期と、食欲が落ちた時期を照らし合わせてください。重なっているなら、その可能性があります。本人は結びつけていないことがあります。
そして、種類が増えていないかを確かめてください。複数の医療機関から出ていると、数が増えていきます。胃に負担がかかっているかもしれません。
味の感じ方を変える薬もあります。「何を食べてもおいしくない」という訴えの背景にあることがあります。薬剤師に確かめてください。
自己判断で中断しないでください。お薬手帳を持って、薬剤師か主治医に相談してください。調整できる場合があります。
食べたくても食べられない状態が、あります。
入れ歯が合っていないと、硬いものを避けるようになります。結果として、食べられるものが減ります。本人が我慢していることがあります。
そして、口の中に傷や炎症があると、痛くて食べられません。一度、口の中を見せてもらってください。本人は訴えないことがあります。
口が乾いていると、味も分からず、飲み込みにくくなります。薬の影響で乾く場合もあります。こまめに湿らせてください。
歯科を受診してください。訪問で診てもらえる場合もあります。口の状態が整うだけで、量が戻ることがあります。
環境が、食べる量を大きく左右します。
一人で食べると、作る意欲も食べる意欲も落ちます。誰かと食べれば、時間がかかり、その分だけ多く入ります。この差が、毎日積み重なります。
通所のサービスを使えば、その日は必ず誰かと食べることになります。食事だけを目的にする必要はありません。ケアマネジャーに相談してください。
そして、地域の会食の集まりがあります。公民館や集会所で開かれていることがあります。地域包括支援センターで確かめてください。
電話をつないだまま食べる方法もあります。離れていても、話しながらなら一人ではありません。家族ができることです。
一度に食べられないなら、分ける形に切り替えてください。
三回にこだわらず、五回に分けてください。朝、午前の間食、昼、午後の間食、夕。一回の量が減れば、負担が軽くなります。
間食は、菓子でなくて構いません。牛乳、ヨーグルト、豆腐、卵、果物、チーズ。体をつくる材料が入るものを選んでください。
そして、食べられる時間帯に寄せてください。朝のほうが食べられる方が多くいます。一日の中で、調子の良い時間を使ってください。
食べたいと言ったときに、すぐ出せる形にしておいてください。準備に時間がかかると、その間に食欲が消えます。手の届く場所に置いておいてください。
量が入らないなら、中身を濃くしてください。
同じ量でも、入る栄養は工夫で変わります。油、バター、マヨネーズ、乳製品、卵。少量で熱量が入ります。
そして、汁物に具を多く入れてください。飲むだけで、材料が入ります。水分も同時に取れます。
飲み物にも栄養を持たせてください。牛乳、豆乳、果汁、栄養補助の飲料。水やお茶ばかりだと、量だけ入って栄養が入りません。
どの方法が合うかは、状態によります。管理栄養士に相談すると、具体的な献立に落とし込めます。受診している医療機関で相談できる場合があります。
小さなことですが、実際に効きます。
大きな器に少量を盛ると、寂しく見えます。小さめの器に盛るほうが、満たされて見えます。残す量も減ります。
そして、大盛りを見た時点で、食べる気が失せることがあります。少なく出して、足りなければおかわりする形にしてください。完食できたという感覚が、次につながります。
色の数を意識してください。茶色ばかりの食卓は、食欲を落とします。緑や赤が一色入るだけで、変わります。
そして、においも効きます。だしの香り、焼く香り、柑橘の香り。温めてから出すだけで、違いが出ます。
お腹が空かない状態が、続いていることがあります。
一日中座っていると、空腹を感じにくくなります。動かなければ、燃料も使われません。これが食欲の低下につながります。
そして、外に出る用事を作ってください。買い物、散歩、通所、集まり。体を動かすだけでなく、気持ちも変わります。
足腰に不安がある方は、座ったままできる動きもあります。通所のサービスや、地域の教室で教えてもらえます。無理に歩こうとして転倒するほうが危険です。
食事の前に、少し体を動かす習慣も効きます。台所に立つ、食卓を整える、庭に出る。準備の動作自体が、刺激になります。
周囲の関わり方が、状況を悪くすることがあります。
「食べないと駄目だ」という言葉は、追い詰めます。本人は食べたいのに、体が受け付けないという状態があります。意欲の問題ではありません。
そして、残されると作った側が落ち込みます。この空気が、食事の時間を苦しいものにします。残してよいという前提で出してください。
食べられた日を喜んでください。食べられない日を責めないでください。この積み重ねが、食事の時間を保ちます。
好きなものを優先してください。栄養の整った献立を残されるより、好きなものを食べてもらうほうが、入る量は増えます。まず食べることです。
様子を見る期間を、決めておいてください。
体重が減っているなら、その時点で相談してください。週に一度、同じ条件で測ってください。減り続けているなら、様子を見る段階ではありません。
そして、水分が取れていないときは、急いでください。高齢の方は、短時間で状態が悪くなります。食べられなくても、水分だけは確保してください。
相談先は、かかりつけの医師です。「食欲がない」だけでは伝わりにくいので、いつから、どのくらい減ったかを伝えてください。記録があると確かです。
介護のサービスを使っている方は、ケアマネジャーにも伝えてください。食事の支援や、栄養の相談につないでもらえます。届けてもらう形も、選択肢になります。
「食べない」と「量が減った」は、家族から見ると同じに見えますが、確かめる順番が違います。まったく手をつけないのか、食べ始めるが途中でやめるのか。この二つを分けて見てください。
手をつけないときは、食欲そのものより先に、体調と口の中を疑ってください。熱、便通、痛み、入れ歯の当たり。どれか一つでも当てはまれば、そこが原因である可能性が高くなります。
途中でやめるときは、疲れているか、飲み込みにくいかのどちらかであることが多くなります。食事の後半だけむせる、後半だけ時間がかかる。この形が見えたら、食べる力の問題として扱ってください。食事に時間がかかるに見分け方を書いています。
量を測る必要はありません。「いつもの器で何割残ったか」を、一週間ほど書き留めるだけで十分です。数字より、増えているのか減っているのかという向きが大事です。記録のしかたは食事の記録にまとめています。
そして、体重を月に一度だけ測ってください。半年で二キロ以上減っているなら、食欲の話ではなく低栄養の話として相談する段階です。目安は高齢者が気をつけたい低栄養とその対策に書いています。
食欲が落ちたとき、料理の工夫から入る方がほとんどですが、 工夫で戻るのは原因が無いときだけです。 次の順で外していくと、たいていどこかで当たります。
| 疑うもの | あてはまる様子 | 詳しくは |
|---|---|---|
| 口の痛み・入れ歯 | 片側だけで噛む、硬いものを避ける、口内炎 | 入れ歯の手入れ/口腔ケアの手順 |
| 飲み込みにくさ | むせる、時間がかかる、水を残す | 嚥下食とは? |
| 便秘 | お腹が張る、数日出ていない | 便秘を防ぐ食事 |
| 脱水 | ぼんやりする、尿が少ない | 高齢者の脱水を防ぐ |
| 味が分からない | 何を食べても同じ、砂を噛むよう | 味がわからないとき |
| 薬 | 最近増えた薬がある。吐き気・胃のもたれ | 主治医・薬剤師へ。自己判断で止めない |
| 気持ちの落ち込み | 何をしても楽しくない、眠れない、人と会わない | 受診。高齢者のうつは食欲から現れる |
| ひとりで食べている | 誰とも食べていない、テレビを見ながら流し込む | 一人暮らしの食事 |
ここまで外して当たらず、体重が落ちているなら、 病気が隠れている可能性があります。とくに 発熱・痛み・血便・急な体重減少があるときは受診してください (低栄養とその対策)。
原因を外し終わったら、次は形です。 いきなり元に戻そうとせず、1週間だけ試すと決めて始めてください。 戻らなければ変えればよい、という前提のほうが続きます。
当店では、少量でも栄養が入る小町メニューをご用意しています。 「もう食べられないから」とご遠慮される方が多いのですが、 食べられる量に合わせた献立があるとお考えください。 ご家族が離れて暮らしていて様子が分からないときは、 配達時の安否確認もご覧ください。
味が薄く感じる・何を食べても同じ味。亜鉛不足による味覚障害の原因と改善法を解説します。
低栄養のサインの見つけ方と、毎日の食事でできる予防策を紹介します。
やせすぎ・太りすぎを防ぐための体重管理と、食事量の目安を解説します。