亜鉛と味覚障害|配食のふれ愛 太子店 健康コラム

味覚障害のメカニズム — なぜ味がわからなくなるのか

人間の舌には約1万個の味蕾(みらい)という味覚センサーがあり、甘味・塩味・酸味・苦味・うま味の5つの基本味を感じ取っています。味蕾の中の味細胞は約10〜14日で新しく生まれ変わりますが、この細胞の再生に不可欠な栄養素が亜鉛です。

亜鉛が不足すると味細胞の新陳代謝が滞り、正常に味を感じ取れなくなります。これが味覚障害の最も一般的なメカニズムです。日本口腔・咽頭科学会の調査では、味覚障害の患者の約60〜70%に亜鉛不足が認められています。

味覚障害の種類

種類症状
味覚減退味の感じ方が全体的に鈍くなる。最も多いタイプ
味覚消失まったく味を感じなくなる
異味症本来の味と違う味を感じる(甘いものが苦く感じるなど)
自発性異常味覚何も食べていないのに口の中に変な味がする
解離性味覚障害特定の味だけがわからなくなる(甘味は感じるが塩味がわからないなど)

高齢者の場合、加齢による味蕾の数の減少(80歳では若年者の約1/3に減少)も重なるため、味覚障害のリスクが一層高まります。味覚障害は食欲低下を招き、低栄養の入り口になりかねません。

亜鉛の役割と必要量

亜鉛は体内で300種類以上の酵素の構成成分として働く必須ミネラルです。味覚の維持以外にも、免疫機能、皮膚の修復、たんぱく質の合成など、多岐にわたる生理機能に関与しています。

亜鉛の1日の推奨摂取量

年齢男性女性
65〜74歳11mg8mg
75歳以上10mg8mg

しかし、実際の高齢者の平均摂取量は男性で約8.5mg、女性で約7.2mgと推奨量を下回っている方が多く、潜在的な亜鉛不足は非常に一般的です。

亜鉛が不足しやすい原因

  • 食事量の減少:食が細くなると、亜鉛の摂取量も自然と減る
  • 吸収率の低下:加齢により腸管からの亜鉛吸収率が低下する
  • 偏った食事:パン・麺類中心の食事は亜鉛が不足しやすい
  • アルコールの過剰摂取:アルコールは亜鉛の排泄を促進する
  • 加工食品の多用:食品添加物の中にはポリリン酸ナトリウムなど亜鉛の吸収を阻害するものがある

亜鉛を多く含む食材と摂り方

亜鉛は肉類・魚介類に多く含まれています。以下の食材を意識的に取り入れることで、味覚の維持に必要な亜鉛を食事から確保できます。

亜鉛が豊富な食品ランキング

食品1食の目安量亜鉛含有量
牡蠣(生)3個(60g)約8.4mg
牛肩ロース80g約4.6mg
豚レバー60g約4.1mg
牛ひき肉80g約3.8mg
カシューナッツ20g約1.1mg
1個(60g)約0.8mg
納豆1パック(40g)約0.8mg
チーズ(プロセス)1切れ(20g)約0.6mg

亜鉛の吸収を高める食べ方

  • ビタミンCと一緒に:レモン汁やブロッコリーなどビタミンCが亜鉛の吸収を促進。牡蠣にレモンは理にかなった組み合わせ
  • 動物性たんぱく質と一緒に:肉や魚のたんぱく質が亜鉛の吸収を助ける
  • クエン酸と一緒に:酢やかんきつ類のクエン酸が亜鉛をキレート化し、吸収しやすい形にする
  • フィチン酸に注意:玄米や豆類に含まれるフィチン酸は亜鉛の吸収を阻害。同時に大量に摂らない
  • コーヒー・紅茶は食間に:タンニンが亜鉛の吸収を妨げるため、食事中は避ける

薬の副作用と味覚障害 — 見落としがちな原因

味覚障害の原因として見落とされがちなのが、服用中の薬の副作用です。約200種類以上の薬が味覚障害を引き起こす可能性があるとされています。

味覚障害を起こしやすい主な薬

薬の種類代表的な薬メカニズム
降圧薬(ACE阻害薬)エナラプリル、カプトプリル亜鉛のキレート作用
抗菌薬クラリスロマイシン、メトロニダゾール味覚受容体への直接作用
抗がん剤シスプラチン、5-FU味細胞の増殖抑制
抗うつ薬アミトリプチリン唾液分泌の抑制
パーキンソン病治療薬レボドパ亜鉛の吸収阻害

味覚の変化に気づいたら、まず服用中の薬を確認しましょう。自己判断で薬をやめることは絶対に避け、必ず主治医に相談してください。薬の変更や亜鉛製剤の処方で改善することが多くあります。

味覚障害の受診の目安

  • 2週間以上、味の感じ方がおかしいと感じる
  • 食事が美味しくなく、食欲が明らかに落ちている
  • 口の中に常に変な味(苦味・金属味など)がする
  • 新しい薬を飲み始めてから味覚が変わった

耳鼻咽喉科や口腔外科を受診すると、電気味覚検査やろ紙ディスク法で味覚機能を客観的に評価してもらえます。血液検査で亜鉛値も確認でき、不足が判明すれば亜鉛製剤(プロマック、ノベルジンなど)の処方を受けられます。

味が分からなくなると何が起きるか

不便というだけの話では終わりません。

食べても満足できないので、食べる量が減ります。そのまま栄養不足につながります。高齢の方では、体重の減少が始まります。

そして、味を足そうとして、濃くなります。塩や醤油の量が増えます。本人は「ちょうどよい」と感じています。

傷んだものに気づけない場合もあります。においや味の変化で判断できなくなります。食中毒の危険が上がります。

作る楽しみも失われます。味見ができないので、料理そのものをやめてしまう方がいます。生活の張りが減ります。

本人が気づかない場合がある

周囲が先に気づくことが多くあります。

徐々に進むと、変化に気づけません。「昔から濃い味が好きだった」と思い込んでいることがあります。比べる相手がいないと分かりません。

そして、家族が「味が濃い」と感じたら、手がかりです。同じ料理を食べて、違いが出るかを確かめてください。味付けが変わったかを聞いてください。

調味料の減り方も目安になります。醤油の減りが早くなった、砂糖を多く使うようになった。台所を見れば分かります。

食べ残しが増えたときも、疑ってください。「おいしくない」と言うようになったら、味が届いていない可能性があります。好みが変わったのではないかもしれません。

口の中の状態を確かめる

体の中の問題とは限りません。

舌が汚れていると、味が届きません。白っぽい膜がついていることがあります。口の手入れで変わる場合があります。

そして、口が乾いていると、味を感じにくくなります。唾液が減ると、味の成分が舌に届きません。高齢の方に多い状態です。

入れ歯が合っていない場合もあります。上あごを覆う形だと、感じ方が変わることがあります。歯科で相談してください。

まず歯科を受診する方法もあります。口の中の手入れだけで改善する場合があります。試す価値があります。

食べ方の工夫で補う

原因を調べるあいだも、食事は続きます。

塩を足すのではなく、別の方向で補ってください。酸味、香り、温度、食感。味以外の要素で、食べる楽しみが戻ることがあります。

そして、だしを濃くとってください。うま味は比較的感じられる場合があります。塩を増やさずに、満足感が出ます。

香りの強いものを使ってください。生姜、しそ、ゆず、ごま、海苔。鼻から入る情報が、味の印象を支えます。

温度の差も効きます。温かいものは温かく、冷たいものは冷たく。ぬるいと、ぼやけます。

塩分が増えないように見張る

ここが最も危険な点です。

味が分からないまま濃くしていくと、体に負担がかかります。本人には自覚がありません。周囲が確かめてください。

卓上に調味料を置かないでください。無意識にかけます。小皿に出して、つける形にしてください。

そして、作る人がいる場合は、味付けを任せてください。本人の味見に合わせると、家族には濃すぎる味になります。これが一つの目安になります。

血圧を測っている方は、その数字も見てください。上がってきていたら、塩分が増えている可能性があります。受診のときに伝えてください。

体をつくる材料も一緒に

特定の栄養素だけを考えないでください。

食事全体の量が減っていると、必要なものが全体的に足りません。一つの栄養素を足しても、追いつきません。まず食べる量を確保してください。

そして、肉や魚を避けている方は、不足しやすくなります。植物性のものだけでは、取りにくい栄養素があります。種類を増やしてください。

偏った食事が続いていないか、振り返ってください。同じものばかり食べていませんか。一人暮らしの方に起きやすい状態です。

何が足りていないかは、血液の検査で分かる場合があります。受診のときに相談してください。自分で判断しないでください。

サプリメントに頼る前に

注意が要る部分です。

自己判断で大量に取らないでください。取りすぎると、別の栄養素の吸収を妨げることがあります。体に良いとは限りません。

そして、飲んでいる薬との関係もあります。組み合わせに注意が要る場合があります。医師や薬剤師に確かめてください。

まず食事から取ることを考えてください。食品からなら、取りすぎになりにくくなります。ほかの栄養素も一緒に入ります。

不足が確かめられて、医師が必要と判断した場合は、指示に従ってください。その場合は、処方されることもあります。勝手に始めないでください。

ほかの原因が隠れている場合

味の変化だけの問題とは限りません。

体の別の場所に原因がある場合があります。自己判断で「年のせい」としないでください。受診して確かめてください。

そして、においが分からなくなっている場合もあります。味と、においは深く関わっています。どちらが変わったのかを、医師に伝えてください。

気持ちの落ち込みが関わることもあります。何を食べてもおいしくない、という訴えです。時期に心当たりがないか、振り返ってください。

複数の原因が重なっていることもあります。一つ直せば済むとは限りません。順番に確かめていく必要があります。

早く相談するほど戻りやすい

時間が関わります。

長く続くほど、戻りにくくなることがあります。様子を見続けないでください。数か月続いているなら、受診してください。

そして、いつからかを伝えてください。受診のときに必ず聞かれます。思い出せる範囲で構いません。

薬が変わった時期と重なっていないかも、確かめてください。新しい薬を飲み始めた後なら、それが関わる可能性があります。お薬手帳を持っていってください。

どこにかかればよいか迷ったら、かかりつけの医師に相談してください。必要な科を案内してもらえます。自分で選ばなくて構いません。

食べる楽しみを守る

最後に、大事な視点です。

味が分かりにくくても、食事の場は残せます。誰かと一緒に食べる、見た目を整える、季節のものを出す。味以外の要素があります。

そして、食べる量を保つことが、何より大事です。おいしくないからと減らすと、体が弱ります。ここを守ってください。

作るのが負担になっているなら、届けてもらう形も使えます。味見ができなくても、栄養の整ったものが届きます。作る負担も減ります。

状態が変われば、対応も変えられます。一度決めた形に固定しないでください。相談しながら進めてください。

舌を見ると、分かることがあります

「味がわからない」と言われたとき、まず舌を見てください。 明るいところで、舌を出してもらうだけです。 味蕾(みらい)は舌の表面のぶつぶつの中にあるので、 表面の様子がそのまま手がかりになります。

舌の様子考えられることすること
表面がつるつるして、ぶつぶつが見えない(平滑舌)亜鉛・鉄・ビタミンB12・葉酸の不足受診して血液検査。葉酸とビタミンB12
白い苔が厚く付いている唾液の減少、口の清掃が行き届いていない口腔ケアを見直す。口腔ケアの手順
白い苔がまだらで、こすると剥がれて赤くなる口腔カンジダ症(真菌)。入れ歯や抗菌薬のあとに多い受診。市販のうがい薬では治りません
赤くただれて痛むビタミン不足、義歯が当たっている、口内炎歯科へ。入れ歯の手入れ
乾いて張り付く唾液が出ていない。薬の副作用が多い水分と、薬の見直しを主治医へ相談

いちばん多いのは、亜鉛不足ではなく口の乾きです。 唾液に溶けないと味の成分は味蕾に届かないので、 乾いているだけで味は分からなくなります。 亜鉛を飲む前に、口の中を確かめてください。

亜鉛を摂っても戻らないとき

亜鉛を補って改善するのは、原因が亜鉛不足だった場合だけです。 3か月ほど続けても変わらないなら、別のところに理由があります。

  • 薬の副作用。降圧薬・抗菌薬・抗うつ薬・抗がん剤など 200種類以上で報告があります。飲み始めた時期と、味がおかしくなった時期を 並べてみてください。自己判断でやめず、主治医に伝えます
  • 口の乾き。薬の副作用としても起きますし、 口呼吸や脱水でも起きます(高齢者の脱水を防ぐ
  • かぜのあと。においが分からなくなっているだけのことがあります。 味の大半はにおいで感じているので、鼻が戻れば味も戻ります
  • 脳の病気。片側だけ分からない、しびれや麻痺を伴うときは急いで受診
  • 亜鉛の吸収が妨げられている。加工食品の添加物(ポリリン酸など)や 鉄剤・カルシウム剤と一緒に摂ると吸収が落ちます。時間をずらしてください

亜鉛は、サプリメントで一日100mgを超えるような摂り方をすると 銅の吸収を妨げて貧血を起こします。 推奨量は男性10〜11mg・女性8mgで、食品から摂るぶんには心配は要りません (サプリメントとの付き合い方)。

味が戻るまでの、食事の組み立て

味が分からない期間がいちばん危ないのは、 食べる量が落ちることと、塩を足しすぎることです。 どちらも起きます。味覚が戻る前に体を壊してしまわないよう、 次の順で手を打ちます。

  • 塩ではなく、うま味と香りで補う。だし・かつお節・干し椎茸・ トマト・チーズのうま味は、味覚が落ちていても感じ取りやすく残ります。 しょうが・青じそ・ごま・のり・柚子といった香り、酢の酸味も効きます
  • 温度差をつける。温かいものと冷たいものを交互に置くと、 味以外の刺激で食が進みます
  • 食感を変える。やわらかいものばかりだと単調になります。 安全な範囲でパリッとしたもの、とろりとしたものを混ぜます
  • 見た目を整える。味が分からない分、目で食べることになります。 彩りのある副菜を1品足すだけで残す量が変わります
  • 体重を測る。味覚障害の本当の害は、 食べなくなって痩せることです(低栄養とその対策

当店では、味覚が落ちている方には だしを効かせた献立をお出しし、食塩相当量は変えずに満足感を出すようにしています。 塩を足したくなる気持ちは自然なものですが、 高血圧や腎臓病がある方では、そこから別の問題が始まります (高齢者の高血圧と食事)。

亜鉛豊富な食事で味覚を守りましょう

配食のふれ愛では、肉・魚・卵・大豆製品をバランスよく使った献立で、亜鉛をはじめとする必須ミネラルの摂取をサポートしています。味覚が低下して食事が楽しめなくなった方も、管理栄養士監修の美味しいお弁当で「食べる喜び」を取り戻してください。

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関連用語

亜鉛

300以上の酵素に関わる必須ミネラル。味覚の維持、免疫機能、細胞分裂に不可欠で、不足すると味覚障害の主因となります。

低栄養

エネルギーやたんぱく質などの栄養素が慢性的に不足した状態。味覚障害による食欲低下が低栄養の引き金になることがあります。

たんぱく質

体の組織をつくる三大栄養素の一つ。亜鉛の吸収を助ける働きもあり、肉や魚から亜鉛と同時に摂取できます。

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