「区分3」と言われても、どの表の3なのかで意味が変わる
嚥下食(えんげしょく)とは、飲み込む力が弱った方でも安全に食べられるように、形・硬さ・まとまりやすさを整えた食事のことです。やわらかくするだけの食事とは目的が違います。狙いは「噛みやすくすること」ではなく、口から喉へ送るあいだに、ばらけず、気管へ入らないことにあります。
飲み込みは0.5秒ほどのあいだに、舌で食べ物をまとめ、喉へ送り、気管にふたをする、という動作が連続して起きています。加齢や脳卒中、パーキンソン病などでこの連続が崩れると、食べ物が気管に入ります(誤嚥)。誤嚥した食べ物に細菌が付いていると誤嚥性肺炎になり、高齢者の肺炎の多くはこれが原因です。
嚥下食は、その崩れ方の程度に合わせて段階が分かれています。「やわらかい/硬い」の一本の物差しではなく、ばらけないか・べたつかないか・変形しやすいかの3つを見て段階が決まります。ここが、ただのきざみ食との決定的な違いです。細かく刻んだだけの食事は、口の中でばらけるため、飲み込む力が弱い方ではかえって危険になります。
段階を決める前に、そもそも嚥下食が要る状態かどうかを見ます。次のような様子が続いているときは、飲み込む力が落ちています。
むせないから安全、とは限りません。飲み込む力が大きく落ちた方では、気管に入っても咳が出ない「不顕性誤嚥」が起きます。むせは無いのに熱を繰り返す場合は、かかりつけ医か耳鼻咽喉科、リハビリテーション科にご相談ください。検査(嚥下内視鏡検査・嚥下造影検査)でどの段階が適切かが分かります。
介護食の硬さや飲み込みやすさを表す基準は、日本に複数あります。それぞれ作った団体も目的も違うため、同じ「区分3」でも指すものが違います。
| 名前 | 作ったところ | 用途 |
|---|---|---|
| 嚥下調整食分類2021(学会分類) | 日本摂食嚥下リハビリテーション学会 | 医療・介護の現場での共通言語。病院と施設のやりとり |
| ユニバーサルデザインフード(UDF) | 日本介護食品協議会 | 市販の介護食品のパッケージ表示 |
| スマイルケア食 | 農林水産省 | 介護食品の選び方を一般に示す |
医療機関で使われる基準です。コード0から4まであり、数字が大きいほど普通食に近づきます。
| コード | 内容 | 目安 |
|---|---|---|
| 0j / 0t | 均質なゼリー/とろみ水 | 嚥下訓練の開始段階 |
| 1j | 均質でまとまりのあるゼリー・プリン・ムース | スプーンですくって、そのまま飲み込める |
| 2-1 / 2-2 | ピューレ・ペースト。なめらか/不均質なものを含む | スプーンですくって食べられる |
| 3 | 形はあるが押しつぶしが容易。まとまりやすい | 舌と上あごで押しつぶせる |
| 4 | やわらかく、ばらけにくい。箸で切れる | 歯ぐきで噛める |
退院時にはこのコードで指示が出ます。「学会分類コード3」と言われたら、この表の3です。メモして帰ってください。
市販品の袋に印刷されているのはUDFの区分です。4段階あります。
| UDF区分 | 目安 | 学会分類でいうと |
|---|---|---|
| 容易にかめる | 硬いものが食べにくい | おおむねコード4以上 |
| 歯ぐきでつぶせる | 歯ぐきで噛める硬さ | おおむねコード4 |
| 舌でつぶせる | 舌と上あごで押しつぶせる | おおむねコード3 |
| かまなくてよい | 飲み込むだけ | おおむねコード2 |
対応は目安であり、厳密に一致するものではありません。迷ったら、より安全側(やわらかい側)を選んでください。
スマイルケア食は色と数字のマークで表します。青は噛むことに問題はないが栄養が足りない方向け、黄色は噛むことが難しい方向け(2・1・0の3段階)、赤は飲み込むことが難しい方向け(2・1・0の3段階)です。
嚥下食は現場ごとに呼び名が違い、同じものが別の名前で呼ばれています。名前を覚えるより、どの段階のものを指しているかで見てください。
| 呼び名 | どんなもの | 学会分類でいうと |
|---|---|---|
| ゼリー食・嚥下訓練食 | 均質なゼリー。訓練の開始段階で使う | 0j / 1j |
| ミキサー食・ペースト食 | ミキサーでなめらかにしたもの | おおむね2 |
| ムース食・ソフト食 | ムース状に固め直したもの。元の形に似せることが多い | 1j〜2 |
| やわらか食・軟菜食 | 加熱と下処理でやわらかく仕上げた普通の料理 | おおむね3〜4 |
| きざみ食 | 刻んだだけのもの。まとまりは無い | 嚥下食には入らない |
表のいちばん下に注意してください。きざみ食は嚥下食ではありません。噛む力を補うための形態であって、飲み込む力を補うものではないためです。刻んだだけの食事は口の中でばらけ、まとまらないまま喉へ落ちるので、飲み込む力が弱い方には危険側に働きます。「きざみとろみ」と呼ばれる、刻んだうえでとろみをつけた形にして初めて、嚥下食の入口に立ちます。
ムース食が現場で好まれるのは、安全な段階でありながら見た目を保てるからです。ペースト状のまま器に流すと何を食べているか分からなくなりますが、型で元の料理の形に近づけると食が進みます。詳しくはムース食の世界をご覧ください。
毎食を家庭で作り分けるのは続きません。市販のレトルトや冷凍の介護食、宅配の配食を組み合わせるのが現実的です。市販品を選ぶときは、パッケージのUDF区分か、スマイルケア食のマークをまず見ます。「やわらか」「かんたん」といった商品名だけで選ぶと、段階の合わないものを買うことになります。
合わせて確かめたいのが1食あたりのエネルギーとたんぱく質です。嚥下食は水分が多くなるぶん、同じ量でもエネルギーが下がりやすく、続けるうちに低栄養へ傾きます。市販品では1食200kcalに届かないものも珍しくないので、1日3食を市販品だけで組む場合は、合計で足りているかを一度計算してください。
とろみ調整食品は商品ごとに必要量が違います。別の商品に替えたときに前と同じ量を入れると濃さが変わるので、替えるときは必ず表示を見直します。とろみの段階と付け方はとろみの付け方にまとめています。
病院の指示が無い状態で家庭が段階を決めるのは本来おすすめできませんが、退院の指示が口頭だけで残っていない、判定を受ける前で困っている、ということは実際に起こります。そのときに手がかりになるのが、スプーンを傾けたときの動きです。
| スプーンを傾けたとき | おおよその段階 |
|---|---|
| つるりと丸ごと滑り落ち、皿の上でも形が残る | コード1j(ゼリー・ムース) |
| とろりと流れ落ちるが、離れずにひとつながりで落ちる | コード2(ピューレ・ペースト) |
| ぼてっと塊で落ち、指で押すと簡単につぶれる | コード3(押しつぶし可) |
| 箸で切れるが、噛まないと飲み込めない | コード4(やわらか食) |
もうひとつの目安が「ばらけるかどうか」です。皿の上でスプーンの跡が残らずに広がってしまうものは水分が多すぎ、逆にスプーンから離れずに糸を引くものはべたつきが強すぎます。べたつきは喉に貼りつくので、やわらかければ安全という判断は通用しません。もちや練り物、ねっとりした芋類は、やわらかくても危険側に入ります。
嚥下食は一度決めたら固定するものではありません。リハビリや体調の回復で飲み込む力が戻れば段階を上げますし、体調を崩せば下げます。変えるときは、1段階ずつ、1〜2週間ようすを見ながら進めます。2段階まとめて上げると、うまくいかなかったときにどこが原因か分からなくなります。
上げてよいかどうかの目安は、いまの段階を「むせずに、30分以内で、量を残さず」食べられている状態が2週間続いているかどうかです。1つでも欠けているなら、まだ上げません。逆に、これまで食べられていた段階でむせが増えた、食事の時間が延びた、食べ残しが増えた、というときは、様子を見ずに1段階下げてから受診してください。
段階を上げるときは、まず1食のうち1品だけを上の段階にします。全部を変えると、合わなかったときにその1食が丸ごと食べられなくなります。主菜から試すのが分かりやすく、汁物と水分は最後まで元の段階に据え置きます。水分はいちばん難しいので、水分でむせるときもあわせてご覧ください。
家庭で作ると、味と見た目が落ちて食が細るのがいちばんの問題になります。ミキサーにかけるときに水やだしを足しすぎると、味が薄まったうえにとろみが足りずばらけます。水を足すのではなく、加熱してやわらかくしてからミキサーにかけ、足りない分はとろみ調整食品で補うのが基本です。
食材を全部まとめてミキサーにかけると、灰色がかった1色になります。主菜・副菜・主食は別々にかけ、器の中で分けて盛りつけてください。何を食べているか分かることが、食欲を保つうえで想像以上に効きます。
手間の面では、1食ぶんだけミキサーにかける作業が続きません。まとめて作って製氷皿で小分け冷凍し、1食ずつ解凍する形にすると回ります。ただし冷凍と解凍で水分が分離してばらけやすくなるので、解凍したあとにとろみを見直すことを習慣にしてください。調理の具体的なこつはやわらかく調理するこつにまとめています。
配食事業者は独自の呼び名を使うことが多く、これも混乱のもとです。配食のふれ愛 太子店の場合は次のとおりです。
| 当店の呼び名 | どんな方に |
|---|---|
| 普通食 | 硬さの制限がない方 |
| 小町食 | やわらかめに仕上げた食事。量も控えめ |
| きざみ | 細かく刻んだ形態。かむ力が落ちた方 |
| 一口大 | ひと口で入る大きさに切った形態 |
| ムース食 | なめらかなムース状。飲み込みが難しい方 |
どれが合うかは、まず試してみるのが確実です。硬さの感じ方には個人差があり、表の上での対応だけでは決まりません。無料試食をご利用ください。
形態ごとの詳しい説明はきざみ食・一口大とはとムース食の世界をご覧ください。
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