アレルギーではないが、譲れない。その線引きも食事の設計に入る
食べられないものには、体の理由だけでなく信条や宗教による理由があります。医学的な緊急性はありませんが、本人にとっては同じくらい重要な線引きです。介護の現場では「わがまま」と受け取られてしまうことがあり、伝え方に工夫がいります。
厚生労働省も、高齢者施設における食事は「本人の意向を尊重する」ことを基本としています。希望を伝えること自体は当然の権利です。
| 区分 | 避けるもの | 注意点 |
|---|---|---|
| ハラル(イスラム教) | 豚、アルコール、イスラム法に則らない食肉 | みりん・料理酒・しょうゆのアルコール分、豚由来ゼラチン・ラードも対象 |
| ヒンドゥー教 | 牛。ベジタリアンの方も多い | 牛脂・ブイヨンも対象 |
| 仏教(精進) | 肉・魚。五葷(にんにく・ねぎ等)を避ける流派も | かつおだしが不可。昆布・しいたけだしに替える |
| ベジタリアン | 肉・魚。区分により卵・乳は可 | ゼラチン、かつおだし、動物性のスープに注意 |
| ヴィーガン | 動物性食品すべて(卵・乳・はちみつ含む) | ビタミンB12・鉄・カルシウムが不足しやすい |
実務でつまずくのはだしと調味料です。和食の土台であるかつおだし、みりん、料理酒は、精進とハラルの双方で問題になります。昆布・しいたけのだしと、アルコールを飛ばさない調味料の選択で対応します。
動物性食品を避ける場合、高齢者では次の栄養素が不足しやすくなります。
ビタミンB12の不足は数年かけて進み、貧血と神経症状として現れます。長期にわたって動物性食品を避けている高齢者は、定期的に血液検査を受けてください。
施設や配食に伝えるときは、次の順で書くと受け取る側が動きやすくなります。
配食のふれ愛 太子店の献立は日本の家庭料理を基本としており、専用のハラル対応やヴィーガン対応の弁当はご用意していません。ただし、特定の食材を避けたいというご希望は献立表をご覧いただきながらご相談いただけます。詳しくはよくある質問をご覧ください。
アレルギーは体の反応、信条や宗教上の決まりは本人の意思です。混ぜて考えると、どちらの対応も雑になります。
| 見るところ | アレルギー | 信条・宗教 |
|---|---|---|
| 守れなかったとき | 体に害が出る | 本人の尊厳が傷つく |
| 微量の扱い | 微量でも危険なことがある | 本人の考え方による。人によって違う |
| 決めるのは | 医師の診断 | 本人(と家族) |
| 確かめ方 | 検査、診断書 | 本人に聞く。決めつけない |
どちらも「守れなくてもいい」ものではありません。アレルギーは体の問題として、信条は人としての扱いの問題として、それぞれ真面目に対応する必要があります。
宗教上の決まりは、同じ宗教でも人によって守る範囲が違います。「イスラム教だからこう」「ベジタリアンだからこう」と決めつけると、外します。
聞くべきことは次のとおりです。
3つめは日本の食事で最もつまずくところです。和食のほとんどにかつおだしが入ります。菜食を守る方にとって、これが分かりにくい形で入ってきます。昆布だし、しいたけだしに替えられるかを先に決めておいてください。
また、みりんと料理酒はアルコールを含みます。加熱で飛ぶと考える方もいれば、原材料として避ける方もいます。ここも本人に確かめる項目です。
肉や魚を避ける食事では、たんぱく質、鉄、ビタミンB12、亜鉛が不足しやすくなります。高齢の方では、これらの不足が筋力の低下や貧血につながります。
ビタミンB12は補いにくい栄養素です。完全に植物性だけで長く続ける場合は、必ず医師か管理栄養士に相談してください。不足すると貧血と神経の症状が出ます。高齢の方は吸収も落ちているため、より不足しやすくなります。
すべての事業者が対応できるわけではありません。できないことを無理に頼むより、できる範囲を先に確かめて、足りないところを別の方法で埋めるほうが現実的です。
組み合わせの例を挙げます。
伝えるときは、理由まで添えてください。「宗教上の理由で豚肉を食べません」と一言あるだけで、現場の受け止め方が変わります。好き嫌いと区別してもらうために必要です。伝え方の紙の作り方はアレルギーの伝え方が使えます。
そして、この対応はアレルギーの対応と同じ仕組みで動きます。名札を付ける、先に作る、器具を分ける、配膳で確かめる。コンタミネーションの工夫がそのまま使えます。
肉そのものを避けるのは簡単ですが、実際につまずくのは調味料です。日本の家庭料理は、みりん、料理酒、しょうゆ、だし、コンソメ、ブイヨンで味を作ります。この一つ一つに、避けたいものが入っている可能性があります。
みりんと料理酒はアルコールを含みます。しょうゆも製造の過程でアルコールが生じ、保存のために加えられている製品があります。コンソメやブイヨンには牛や豚の成分が入ります。和風だしの素にはかつおが入りますし、製品によっては豚のエキスが加えられています。ゼラチンは豚や牛の骨や皮から作られます。
置き換えの候補を挙げます。みりんの代わりには、砂糖と水。料理酒の代わりには、水と少量の酢。コンソメの代わりには、昆布としいたけのだしに塩とこしょう。ゼラチンの代わりには、寒天やカラギーナン。寒天は日本で手に入りやすく、値段も安く、しかも食物繊維が取れます。ゼリーを作る場面ではそのまま置き換えられます。
大事なのは、どこまで気にするかを本人に確かめることです。加熱でアルコールが飛べば構わないという方もいれば、原材料として入っていること自体を避ける方もいます。こちらで基準を決めず、本人の考えを聞いてください。
信条や宗教で食べるものが違う方が家族や施設にいるとき、その人だけ別の食事になりがちです。しかし、食事は栄養を取るだけの時間ではありません。同じものを食べることには意味があります。
できる工夫があります。全員のぶんを、避ける必要のあるものを入れずに作り、あとから足す方式です。カレーなら、野菜と豆で作ったものを全員に出し、肉を食べる人だけ別に炒めた肉を足します。鍋なら、昆布だしで作り、取り分けてから各自が好みのものを入れます。汁ものなら、かつおだしではなく昆布だしで作れば、全員が同じものを飲めます。
この方式には副産物があります。アレルギーのある方がいる場合にも、同じやり方がそのまま使えます。アレルゲンを入れずに作って、あとから足す。混入を防ぐ順番としても正しく、しかも別々に作る手間が減ります。
施設で行事食を出すときも、この考え方が使えます。全員が同じ見た目のものを食べられるように献立を組んでおけば、特定の方だけ違うものを目の前に置かれるという場面が減ります。人としての扱いの問題として、ここは軽く見ないでください。
配食を使う場合も、対応の可否を最初に確かめてください。すべての事業者ができるわけではありませんが、確かめる価値はあります。聞き方と比べ方は配食サービスの確認12項目にまとめています。
避けるものが多いと、買いものと調理のたびに確認が必要になり、負担が積み上がります。手間を減らすには、確認の回数そのものを減らすことです。
いちばん効くのは、使える商品のリストを作ることです。しょうゆ、みそ、だし、油、砂糖といった基本の調味料について、条件に合う製品を一つずつ決めます。決まってしまえば、次からは同じものを買うだけで、表示を読む必要がありません。調味料が固まれば、日々の料理での確認は食材だけになります。
食材のほうも、使う範囲を絞ると楽になります。野菜、いも、豆、米、卵や乳を食べるならそれらは、確認の必要がほとんどありません。加工品を減らすほど、確認は減ります。加工品を使う場合は、原材料が少ないものを選んでください。原材料欄が3行あるものより、5つしか書かれていないもののほうが、確かめやすく間違いも起きません。
そして、リストを家族と共有してください。買いものを頼むとき、リストがあれば「これを買ってきて」で済みます。リストがないと、頼まれた人が売り場で判断することになり、そこで間違いが起きます。判断させないことが、確実さにつながります。
施設や配食を使う場合も、同じ考え方が使えます。使ってよい調味料を紙で渡しておけば、現場が毎回判断せずに済みます。渡す紙の作り方はアレルギーの伝え方にまとめています。
施設の側で、信条にもとづく食事に対応する場面が増えています。受け入れる前に整えておくべきことがあります。
まず、本人と家族から、具体的に何を避けるのかを聞き取ってください。同じ呼び名でも、人によって範囲が違います。「その宗教なら、これがだめなはず」という一般論で決めないでください。書面にして、双方で確かめてください。
次に、厨房で守れるかどうかを、正直に見極めてください。器具を分けられるか、油を分けられるか、保管を分けられるか。できないなら、できないと伝えてください。できないことをできると答えるほうが、はるかに問題になります。
できない部分は、外の力を使う方法があります。対応した食品を取り寄せる、家族に持ち込んでもらう、専門の事業者に委託する。全部を自前でやろうとしないでください。
そして、職員全員に共有してください。調理する人だけでなく、配膳する人、おやつを出す人、行事を担当する人。行事の菓子や、善意の差し入れで問題が起きることが多くあります。誰か一人が知らないだけで、守れなくなります。
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