「抜いた献立」は、埋めなければ栄養の穴がそのまま残る
食物アレルギーの食事療法の原則は「必要最小限の除去」です。日本のガイドラインでも、念のための除去や、家族ぐるみの除去は推奨されていません。
理由は2つあります。ひとつは低栄養のリスク。もうひとつは食べる楽しみが失われることです。高齢者では、食事の楽しみが減ることがそのまま食欲の低下、体重減少、活動量の低下につながります。
除去の範囲は必ず医師の指示に基づいて決めます。「たぶんこれも危ないだろう」で品目を増やさないでください。
| 除去するもの | 減る栄養 | 埋める食材 |
|---|---|---|
| 卵 | たんぱく質、ビタミンA・D・B12 | 魚、鶏肉、豆腐、高野豆腐、しらす |
| 乳 | カルシウム、たんぱく質、ビタミンB2 | 豆腐、厚揚げ、小松菜、しらす、ひじき、納豆 |
| 小麦 | エネルギー、食物繊維、ビタミンB1 | 米、米粉、いも類、雑穀(他のアレルギーがなければ) |
| 大豆 | たんぱく質、鉄、マグネシウム | 肉、魚、卵、ごま(他のアレルギーがなければ) |
| 魚 | EPA・DHA、ビタミンD | 肉、卵、きのこ、しそ油・えごま油 |
| 甲殻類 | たんぱく質(代替は容易) | 魚、鶏肉、豆腐 |
置き換えを考えるときの順番は、①たんぱく質 → ②カルシウム・鉄 → ③エネルギーです。高齢者ではまずたんぱく質を確保します。1日あたり体重1kgにつき1.0〜1.2gが目安です(腎機能の制限がある方を除く)。
除去が続くと、作れる料理が固定されて同じものが繰り返し出るようになります。これが食欲の低下を招きます。次の3つの軸で変化をつけてください。
彩りは見た目だけの話ではありません。色が違う食材は栄養素も違います。5色そろえると、意識しなくてもビタミン・ミネラルの幅が広がります。
除去は一度決めたら終わりではありません。医師の指示のもとで、食べられる範囲が広がっていないかを定期的に確かめます。成人発症のものは治りにくいとされますが、加熱すれば食べられる、量を減らせば食べられる、という範囲が見つかることがあります。
負荷試験は必ず医療機関で行います。自宅で試さないでください。
除去による栄養リスクの詳細は除去食と低栄養を、伝え方はアレルギーの伝え方をご覧ください。
除去食の考え方は、厚生労働省の指針でも「必要最小限の除去」とされています。疑わしいものを片端から抜くのは、安全なようでいて別の危険を作ります。食べられるものが減り、栄養が偏り、食べること自体がつらくなります。
必要最小限とは、次の3つを守ることです。
2つめは特によく間違えられます。卵アレルギーで鶏肉を抜く、牛乳アレルギーで牛肉を抜くのは、根拠がありません。たんぱく質が別のものだからです。同じように、小麦アレルギーで米や大麦まで抜く必要は通常ありません。
除去を始めると、毎食「何を作るか」で悩みます。悩む回数を減らすには、型を先に決めることです。
基本の型は、主食・主菜・副菜・汁ものの4つです。このうち、どこにアレルゲンが入りやすいかを把握しておくと、置き換えが速くなります。
| 枠 | 入りやすいアレルゲン | 置き換えの候補 |
|---|---|---|
| 主食 | 小麦(パン、麺) | 米、米粉パン、米粉麺、いも |
| 主菜 | 卵、えび、かに、魚 | 肉、豆腐、大豆製品、別の魚 |
| 副菜 | 乳(グラタン、和えもの)、木の実 | だしの煮物、酢のもの、おひたし |
| 汁もの | 小麦(ルウ)、えび(出汁) | かつお・昆布だし、みそ汁 |
和食の型は、除去食と相性がよくできています。だしで味を作り、素材をそのまま煮る料理は、アレルゲンが入る余地が少ないためです。洋食の型で悩んでいるなら、和食の型に寄せると楽になります。
子どもの除去食と違うのは、成長のためではなく、いまある体を保つための食事だという点です。足りないことのほうが、多いことより危険になります。
具体的には次の点に気をつけてください。
とくに2つめは軽視されがちです。卵を抜いたハンバーグはまとまらず、パサついて飲み込みにくくなります。飲み込みにくい料理は残されます。残れば栄養が入りません。とろみのつけ方はとろみ食の付け方を参照してください。
除去を始めると、次に来るのが「いつまで続けるのか」という疑問です。ここは自己判断が最も危ないところです。
大人になってから発症したアレルギーは、自然に治ることが少ないとされています。「そろそろ大丈夫だろう」と試すのは、いちばん重い症状を引き起こす可能性がある行為です。とくに前回の症状が軽かった方ほど油断します。
解除できるかどうかを確かめる検査は、医療機関で、備えのある状態で行うものです。家庭で少量から試すことは勧められません。定期的に受診して、検査の値の変化を見ながら医師と決めてください。
一方で、「加熱すれば食べられる」「量を守れば食べられる」という範囲が示されている場合は、その範囲まで食べてください。指示より厳しく避けるのも、必要最小限の原則から外れます。指示の内容を書き留めて、家族と施設で共有してください。
除去食を毎日その場で考えると、負担が重く、内容も偏ります。1週間ぶんをまとめて組むと、手間が減り、栄養の穴も見つけやすくなります。
組み方は単純です。まず、主菜を7日ぶん並べます。魚を3日、肉を3日、豆腐や大豆製品を1日、といった配分にすると、たんぱく質の種類が偏りません。次に、それぞれの日に合う副菜を2品ずつ決めます。ここで、緑の野菜、根菜、海藻ときのこが週のなかで回るように配置します。最後に汁ものを埋めます。
並べ終わったら、抜けている栄養がないかを見ます。牛乳を抜いているならカルシウムの日を、卵を抜いているならたんぱく質の量を、週の単位で確かめてください。1日ごとに完璧を目指すより、1週間で帳尻を合わせるほうが現実的です。
買いものも週単位にすると、原材料の確認が1回で済みます。毎日少しずつ買うと、そのたびに表示を読むことになり、疲れて確認が甘くなります。同じ商品を繰り返し買うようになれば、確認の手間はさらに減ります。安心して使える商品のリストを作っておくのが、いちばん効く時間の節約です。ただし、商品はときどき原材料が変わるので、年に1度は読み直してください。
除去食は、その都度作ると負担が続きます。作り置きと冷凍を組み合わせると、負担が半分近くまで下がります。
作り置きに向くのは、煮物、ひじきの煮つけ、きんぴら、おひたし、そぼろです。いずれも味が染みてからのほうがおいしく、冷蔵で2〜3日もちます。冷凍に向くのは、下ゆでした野菜、ゆでた麺、ごはん、ハンバーグやつくねの種、汁ものの具です。小分けにして冷凍しておけば、忙しい日に組み合わせるだけで一食になります。
大事なのは、作り置きを作る日に、除去食を先に作るという順番を守ることです。まとめて作る日は台所が慌ただしくなり、混入が起きやすくなります。除去食のぶんを最初に作り、容器に移してふたをしてから、家族のぶんに取りかかってください。
容器にはラベルを貼ります。何を、いつ作ったか、そして「アレルゲン抜き」であることを書きます。家族の誰かが冷蔵庫から取り出して食べてしまうと、当てにしていたぶんが消えます。ラベルは、混入を防ぐためだけでなく、この行き違いを防ぐためにも必要です。
そして、作り置きだけに頼らないでください。同じおかずが3日続くと、食が細ります。作り置きは土台であって、そこに1品だけ新しいものを足すという使い方が、続けやすくおいしくなります。
除去食は、何年も続くことがあります。だからこそ、始めるときに「続けられるか」を基準に組んでください。1週間だけなら誰でも完璧にできますが、3年続けられる形かどうかは別の話です。
続かなくなる原因は、たいてい作る人の疲れです。毎食、原材料を確かめ、別の鍋で作り、盛り付けを分ける。これを一人で背負うと、半年ももちません。疲れた人が作る食事は、確認が甘くなり、内容も単調になります。作る人を守ることが、結果として本人の安全と栄養を守ります。
負担を減らす道は3つあります。作り置きと冷凍で作る回数を減らすこと。安心して使える市販品を見つけて、確認の手間を減らすこと。そして、外の力を借りることです。訪問介護の調理、配食サービス、家族の分担。週に1〜2回だけでも任せられる先があると、続き方が変わります。
また、定期的に見直してください。診断が変わって食べられる範囲が広がることがあります。市販品の選択肢が増えることもあります。1年前に決めた形をそのまま続けていると、楽になれる機会を逃します。受診のたびに、避ける範囲が変わっていないかを確かめる習慣をつけてください。
除去をしていると、外での食事が難しくなります。避け続けると、出かけること自体が減っていきます。折り合いのつけ方があります。
外食では、事前に確かめてください。電話で問い合わせる、店の表示を見る、原材料の一覧を用意している店を選ぶ。行ってから聞くより、行く前に決めておくほうが確実です。
そして、対応できないと言われたら、無理を頼まないでください。受けてもらっても、厨房で守られなければ意味がありません。できると答えた店より、正直に難しいと答えた店のほうが信頼できます。
行事の場面では、持参という方法があります。集まりに、自分の分だけ用意して持っていく。気を遣わせるのではないかと躊躇する方がいますが、周囲にとっても、そのほうが気が楽です。
そして、食べられないことを理由に出かけなくなるのは、避けてください。人と会う機会が減ることは、食事の内容以上に、その方の生活を細らせます。食べる以外の目的で参加する、食後に合流する、といった形でもかまいません。
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