「年だから食べられない」で片づけると、治るものを見逃す
高齢者のうつは、気分の落ち込みとして表れるとは限りません。次のような形で出ることがあります。
うつは治療で改善します。認知症と誤解されたまま放置されるのは大きな損失です。物忘れと食欲低下が同時に出たときは、うつの可能性も考えてください。
これらのあとに食欲が落ちたなら、身体の病気を調べると同時に、心の状態も見てください。
食欲不振と体重減少には、身体の病気が隠れていることもあります。「うつだろう」と決めつける前に、次を確かめます。
体重が半年で5%以上減っているなら、必ず受診してください。
気分が落ちているときに「しっかり食べなさい」と言っても届きません。次のような形で環境を整えます。
| 言わないほうがよい | 代わりに |
|---|---|
| 「がんばって」「元気を出して」 | 「つらいね」「無理しなくていい」 |
| 「気の持ちようだ」 | 「病気だから治療で良くなるよ」 |
| 「もっと食べないと」 | 「食べられるものだけでいいよ」 |
| 「外に出れば気が晴れる」 | 「一緒に少し歩いてみる?」 |
励ましは、本人にとって「できていない自分」を突きつけられる言葉になることがあります。否定せず、そばにいることのほうが効きます。
「死にたい」と口にしたときは、その場で受診・相談につないでください。高齢者の自殺は、うつが背景にあることが多く、また実行に至りやすいことが知られています。
食欲不振全般の対応は高齢者の食欲不振、孤立の予防は孤立を防ぐをご覧ください。
食欲がないという訴えの背景には、いくつもの原因が並んでいます。心の問題だと決めつける前に、体の側の原因を一つずつ確かめてください。順番を間違えると、治せるものを見落とします。
まず、口の中です。入れ歯が合わない、歯が痛い、口内炎がある、口が乾いている。噛めない状態が続くと、食べること自体が苦痛になり、食欲がないように見えます。歯科で解決することが多いので、最初に確かめてください。
次に、薬です。高齢の方は複数の薬を飲んでおり、その中に食欲を落とすもの、口を乾かすもの、吐き気を起こすものが含まれていることがあります。食欲が落ちた時期と、薬が変わった時期を並べてみてください。重なっているなら、医師に相談する価値があります。
そして、体の病気です。がん、甲状腺の病気、心不全、腎臓の病気、感染症、便秘。いずれも食欲の低下として現れます。体重が落ちている場合は、心の問題と決めつける前に、必ず検査を受けてください。体の原因が見つかれば、それを治すことで食欲が戻ります。
これらを確かめたうえで、なお原因が見当たらず、気分の落ち込みや興味の喪失があるなら、そこで初めて心の側を考えます。この順番が大事です。
食欲がないときに「しっかり食べなさい」と言っても、食べられません。量を求めるのではなく、少しでも入るものを探すほうが現実的です。
食べやすいものには傾向があります。冷たいもの、のどごしのよいもの、においの少ないもの、酸味のあるもの、口の中でまとまるもの。具体的には、そうめん、冷やしうどん、茶わん蒸し、豆腐、ヨーグルト、プリン、アイスクリーム、果物、ゼリー、おにぎり。温かい料理のにおいが つらいという方が多いので、冷ましてから出すだけで食べられることがあります。
盛り付けも効きます。大きな皿に山盛りにされると、それだけで食べる気がなくなります。小さな器に少しずつ、いろいろな種類を並べるほうが、結果として量が入ります。食べきれたという感覚が、次の食事につながります。
そして、量より回数です。1回に食べられないなら、1日5回でも6回でも構いません。決まった時間にこだわらず、食べられるときに食べる形にしてください。「食事の時間だから食べる」ではなく「食べられるときに口に入れる」という考え方に切り替えると、合計は増えます。
それでも足りないときは、栄養補助食品を使ってください。少量で栄養が入るように作られています。味の種類が多いので、口に合うものを探せます。
食べない方を前にすると、家族は焦ります。心配のあまり、食べるよう強く促してしまうことがありますが、これは多くの場合、逆の結果を生みます。
食べることを責められると、食卓そのものが苦痛になります。すると、家族と食べる時間を避けるようになり、さらに食べなくなります。「食べなさい」と言うことが、食べない理由を増やしてしまうという構図です。
代わりにできることを挙げます。一緒に食べること。誰かと食べるほうが、一人で食べるより量が入ります。会話をしながら、ゆっくり時間を取ってください。次に、食べたものを責めないこと。少ししか食べられなくても、食べられたところを認めてください。そして、好きだったものを聞いて出すこと。栄養の計算より、食べたいと思えるかどうかのほうが、この段階では優先されます。
作る側の負担にも目を向けてください。工夫して作ったものが残されるのは、こたえます。この状態が続くと、作る側が疲れ、食卓の空気が重くなります。買ってきたもの、配食、レトルトを使うことに、後ろめたさを感じる必要はありません。負担を減らして、食事の時間を穏やかに保つほうが、結果として食べる量につながります。
気分の落ち込みと食欲の低下が続いているとき、どこに相談すればよいか分からないという方が多くいます。相談先はいくつもあります。
まず、かかりつけ医です。体の病気を確かめたうえで、必要なら専門の医療機関を紹介してもらえます。いきなり精神科に行くことに抵抗がある方でも、かかりつけ医からなら相談しやすくなります。体重の記録と、食べた量の記録を持っていってください。
介護保険を使っているなら、ケアマネジャーです。食事の困りごとを伝えれば、使えるサービスを探してくれます。訪問介護での調理、配食、デイサービスでの食事。食べる場面を増やすことが、食欲を戻すきっかけになることがあります。
地域包括支援センターも窓口になります。介護保険の認定を受けていなくても相談できます。市区町村の保健センターや、精神保健福祉センターでも、家族からの相談を受け付けています。
そして、家族だけで抱え込まないでください。食べない状態が続くと、体力が落ち、動けなくなり、さらに気分が落ちるという循環に入ります。早い段階で外の目を入れるほうが、回復も早くなります。相談することは、家族が力不足だということではありません。この状態は、家族の努力だけで変えられるものではないからです。
食欲が落ちているとき、食事だけを変えようとしてもうまくいかないことがあります。食欲は、1日の過ごし方全体と結びついているためです。生活のリズムから立て直すほうが、結果として食べる量が戻ります。
まず、朝に光を浴びることです。カーテンを開けて、窓辺で過ごす。それだけで体内の時計が整い、夜の眠りが良くなります。夜に眠れていないと、日中の食欲は戻りません。散歩ができるなら、朝の時間に出るのが理想です。
次に、日中に体を動かすことです。動かないでいると、おなかが空きません。買いものに歩いて行く、家事をする、体操をする、庭に出る。体を使った分だけ、食べたいという感覚が戻ってきます。疲れて食べられないほど動く必要はありません。少し動くだけで違います。
そして、人と会うことです。一人で食べる食事は、量が入りません。デイサービス、地域の集まり、家族との食事。誰かと食べる機会を週に何回か作るだけで、食べる量が変わることがあります。食欲を戻す手立てとして、これは軽く見られがちですが、実際には大きく効きます。
これらは、本人だけでは始められないことが多くあります。気分が落ちているときは、外に出る気力そのものが湧きません。家族や支援者が誘い出すところから始まります。無理に連れ出すのではなく、短い時間から、負担の少ないところから。
気分の落ち込みと食欲の低下が数週間以上続いているなら、それは性格や気の持ちようの問題ではなく、治療の対象になる状態です。ここを見誤ると、時間だけが過ぎます。
受診の目安を挙げます。2週間以上、気分が落ち込んでいる。今まで楽しめたことに興味がなくなった。眠れない、または眠りすぎる。食欲がない、体重が減った。何をするにもおっくうで、動けない。自分を責める考えが続く。死にたいという気持ちが出てくる。最後の項目があれば、その時点で急いで相談してください。
高齢の方の場合、気分の落ち込みを訴えず、体の不調として現れることがあります。だるい、食べられない、眠れない、あちこちが痛い。検査をしても異常が見つからない。この形が続くときは、心の側の可能性を医師に伝えてください。本人は「気分の問題ではない」と言うことが多いのですが、家族が気づいて伝えることに意味があります。
治療を受けることで、食欲が戻ることがあります。栄養の工夫だけを続けても、背景にあるものが変わらなければ限界があります。食事の対応と、治療は、どちらか一方ではなく両方が要ります。
そして、家族自身も疲れます。食べてくれない相手を前にする日々は、想像以上にこたえます。介護する側の相談窓口もあるので、抱え込まずに使ってください。地域包括支援センター、ケアマネジャー、保健センター。支える側が倒れないことも、この状況では大事な要素です。
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