胃がないぶん、食べ方が胃の代わりをする
胃は、食べ物をためて、少しずつ腸へ送る貯蔵庫です。手術で胃を切除(または全摘)すると、この機能が失われます。
| 種類 | いつ | 症状 | 対策 |
|---|---|---|---|
| 早期ダンピング | 食後30分以内 | 動悸、冷や汗、めまい、腹痛、下痢 | 1回量を減らす。ゆっくり食べる。食事中の水分を控えめに。食後20〜30分横になる |
| 後期ダンピング | 食後2〜3時間 | 低血糖症状(冷や汗、ふるえ、脱力、意識がぼんやり) | 糖質を一度に多く摂らない。間食を入れる。症状が出たらすぐに糖分(あめ、ジュース)を摂る |
後期ダンピングに備えて、あめや小さなジュースを常に持ち歩いてください。外出中に起きると危険です。
| 栄養素 | なぜ不足するか | 補い方 |
|---|---|---|
| 鉄 | 胃酸が減り、吸収が落ちる | 赤身肉、レバー、ビタミンCと一緒に。葉酸とビタミンB12 |
| ビタミンB12 | 胃から出る内因子がないと吸収できない | 食事では補えず、注射が必要になる場合があります。主治医に確認 |
| カルシウム・ビタミンD | 吸収低下。骨がもろくなる | 乳製品、小魚。骨粗しょう症 |
| たんぱく質 | 絶対量が入らない | 1回量が少ないぶん、密度を上げる |
ビタミンB12の不足は手術から数年後に現れます。「もう落ち着いたから大丈夫」と通院をやめないでください。定期的な血液検査が必要です。
術後の体重減少はある程度避けられませんが、落ち続けるのは別です。週1回、同じ条件で体重を測り、記録してください。
これらがあれば主治医と管理栄養士に相談を。栄養補助食品の導入や、消化酵素の処方が検討されます。
少量で栄養を確保する具体策は一度に食べられないとき、がん治療中の食事はがん治療中の食事をご覧ください。
胃を切ったあとは、1回に入る量が限られます。3食では必要な量に届かないため、回数を増やす必要があります。しかし「1日6回食べる」と言われても、実際にどう組めばよいかが分かりません。具体的な形を示します。
朝7時に食事、10時に間食、12時に食事、15時に間食、18時に食事、20時に軽く。これが基本の形です。間食は菓子ではなく、栄養の入るものにしてください。おにぎり半分、バナナ、ヨーグルト、豆乳、チーズ、蒸しパン、カステラ。間食は「おやつ」ではなく「4回目の食事」だと考えると、選ぶものが変わります。
用意する手間を減らすため、日持ちして そのまま食べられるものを常備してください。ヨーグルト、チーズ、豆乳、栄養補助食品、缶詰、レトルトのおかゆ。作らないと食べられない形にすると、回数が続きません。
水分は、食事と一緒に大量に取らないでください。胃の代わりになる部分がすぐいっぱいになり、食べられる量が減ります。食事のあいだは少なめにして、食間にしっかり取るのが基本です。
そして、食後30分は横にならずに座って過ごしてください。急に流れ込むことで起きる症状を減らせます。ただし、食後に強い だるさや冷や汗が出る場合は、横になって足を上げたほうがよいこともあります。症状のパターンは人によって違うので、自分の場合を主治医と確かめてください。
手術の直後だけでなく、時間がたってから出てくる問題があります。これを知らないと、原因が分からないまま体調が落ちていきます。
1つめが貧血です。胃を切ると鉄の吸収が落ち、さらにビタミンB12を吸収する仕組みが失われます。ビタミンB12の不足は、数年たってから出てくることがあります。だるい、息切れがする、手足がしびれる、物忘れが増えた。これらを年齢のせいにせず、定期的に血液検査を受けてください。不足していれば注射などで補えます。
2つめが骨です。カルシウムとビタミンDの吸収が落ちるため、骨がもろくなります。転んだときに折れやすくなるので、乳製品、小魚、大豆製品、緑黄色野菜を意識して取り、日光にも当たってください。骨の検査を受けておくと、状態が分かります。
3つめが体重です。手術後に減った体重が、そのまま戻らないことがよくあります。「手術したのだから痩せて当然」と受け入れてしまうと、そこから徐々に落ち続けます。月に1回体重を量り、記録してください。落ち続けているなら、栄養の相談が必要です。
4つめが下痢と便秘です。腸の動きが変わるため、便通が不安定になります。食物繊維の取り方、水分、油の量を調整すると落ち着くことがあります。長引くときは主治医に相談してください。
いずれの問題も、定期的な受診と血液検査で早く見つかります。症状が出てから慌てるより、決まった間隔で確かめる形にしておくほうが確実です。
手術のあとの数か月は、作ることも食べることも負担が大きい時期です。この時期を根性でしのごうとすると、体重が落ちて回復が遅れます。使えるものを使ってください。
市販の栄養補助食品は、少量で必要な栄養が入るように作られています。飲むタイプ、ゼリータイプ、粉末を混ぜるタイプがあり、1本で200kcal前後、たんぱく質が10g前後入るものが一般的です。食事で足りないぶんを、間食としてこれで埋めるのが最も確実な方法です。薬局やインターネットで買えますし、医師の指示があれば処方されることもあります。
調理の手間を減らす道具も役に立ちます。おかゆのレトルト、やわらかく調理された市販の惣菜、缶詰、冷凍の煮物。手術のあとは、作る側も疲れています。作る負担が食事の回数を決めてしまうため、手間を減らすことがそのまま栄養につながります。
配食サービスも選択肢になります。1日1食でも任せられれば、そのぶんの手間が消えます。少量で栄養が入るように作られた献立や、やわらかく調理された献立を選べる事業者もあります。量が多すぎる場合は、残して次の食事に回す、あるいは半分ずつ2回に分ける、という使い方もできます。事業者の比べ方は配食サービスの確認12項目にまとめています。
ご本人は、食べられないことを言い出しにくいことがあります。心配をかけたくない、せっかく作ってもらったのに残せない。こうした遠慮から、実際より食べているように見せることがあります。家族が見ておくべきところを挙げます。
1つめが体重です。月に1回、同じ条件で量って記録してください。手術後3〜6か月は体重が落ちやすい時期で、ここで止められるかどうかが、その後を左右します。落ち続けているなら、主治医か栄養士に相談する時期です。
2つめが食べ残しです。作った量ではなく、実際に食べた量を見ます。毎回半分残しているなら、量が多すぎるか、食べにくい形になっています。少なく盛って、足りなければ足すという出し方に変えると、心理的な負担も減ります。
3つめが食後の様子です。冷や汗、動悸、だるさ、めまい、腹痛。食後30分以内、あるいは2〜3時間後に出る症状は、食べ方の調整で減らせることがあります。いつ、どんな症状が出るかを記録して受診に持っていってください。
4つめが顔色と元気です。貧血が進むと、顔色が悪くなり、階段で息切れするようになります。本人は「歳のせい」と言いますが、血液検査ですぐ分かることです。
そして、食べることを急かさないでください。時間がかかるのは当然で、急がせると余計に食べられなくなります。ゆっくり食べられる環境を作ることが、家族にできる最も大きな手助けです。
手術のあと、外での食事を避けるようになる方が多くいます。食べられる量が少ないこと、時間がかかること、途中で具合が悪くなるかもしれないこと。どれも理由としては分かります。しかし、外に出る機会が減ると、生活そのものが縮みます。
乗り切り方があります。まず、量が調整できる店を選ぶことです。定食より、小皿で頼める店、取り分けられる店のほうが向いています。残すことを前もって伝えておけば、気まずくなりません。
次に、時間に余裕を持つことです。急いで食べると症状が出やすくなります。混雑する時間を外し、ゆっくり座れる店を選んでください。
そして、食後すぐに動かないことです。食べてすぐ歩き出すと、具合が悪くなることがあります。食後30分ほど座って過ごせる場所を、あらかじめ決めておいてください。
行事の席では、周囲に一言伝えておくと楽になります。「胃を手術したので、少しずつしか食べられません」と言っておけば、勧められて困ることがなくなります。言わないままだと、食べないことを気にされ、かえって居心地が悪くなります。
持ち歩くものも決めておいてください。具合が悪くなったときのための飴やビスケット、水。低血糖のような症状が出たときに、すぐ口に入れられるものがあると安心です。何を持つかは、症状のパターンによって違うので、主治医に確かめてください。
手術のあとの食事は、時期によって考え方が変わります。同じ形をずっと続けるものではありません。
手術の直後は、少量ずつ、消化のよいものからです。この時期の指導は、病院で受けているはずです。この段階を守らずに急ぐと、つらい症状が出て、食べること自体が怖くなります。
数か月たつと、体が慣れてきて、食べられるものが増えていきます。この時期に、いつまでも制限したままにしている方がいます。食べられる幅が戻っているのに、怖くて広げられないという状態です。主治医に確かめて、少しずつ広げてください。
数年たってから出てくる問題もあります。貧血、骨の弱り、体重が戻らない。これらは、手術から時間がたってから表面化します。定期の検査を受け続けてください。
そして、高齢になってからは、また別の配慮が要ります。噛む力や飲み込む力が落ちてくると、術後の食べ方とあわせて考える必要が出てきます。そのときどきの状態に合わせて、方針を組み直してください。
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