日本の認知症患者数は2025年に約700万人に達すると推計されています。毎日の食事から脳の健康を守るための栄養素と食べ方をご紹介します。
認知症は、脳の神経細胞が変性・脱落することで認知機能が持続的に低下する疾患群の総称です。アルツハイマー型認知症が全体の約60〜70%を占め、次いで血管性認知症、レビー小体型認知症などがあります。
近年の研究により、食事パターンが認知症の発症リスクに大きく影響することが明らかになってきました。中でも注目されているのが「MIND食(Mediterranean-DASH Intervention for Neurodegenerative Delay)」です。
MIND食は、地中海食とDASH食(高血圧予防食)の要素を組み合わせた食事パターンで、2015年にアメリカ・ラッシュ大学のモリス博士らが提唱しました。約900人の高齢者を対象とした追跡調査では、MIND食を厳密に守った群はアルツハイマー型認知症の発症リスクが最大53%低下し、ある程度守った群でも約35%低下したと報告されています。
| 食品群 | 推奨頻度 | 代表的な食品 |
|---|---|---|
| 緑黄色野菜 | 週6回以上 | ほうれん草、小松菜、ブロッコリー |
| その他の野菜 | 毎日1回以上 | にんじん、たまねぎ、キャベツ |
| ナッツ類 | 週5回以上 | くるみ、アーモンド |
| ベリー類 | 週2回以上 | ブルーベリー、いちご |
| 豆類 | 週3回以上 | 大豆、レンズ豆、ひよこ豆 |
| 全粒穀物 | 毎日3回以上 | 玄米、オートミール、全粒パン |
| 魚 | 週1回以上 | さば、さんま、鮭 |
| 鶏肉 | 週2回以上 | 鶏むね肉、鶏もも肉 |
| オリーブオイル | 主要な調理油として | エキストラバージンオリーブオイル |
| ワイン | 1日グラス1杯 | 赤ワイン(飲めない方は無理に飲む必要なし) |
DHA(ドコサヘキサエン酸)とEPA(エイコサペンタエン酸)は、青魚に多く含まれるオメガ3系脂肪酸です。DHAは脳の神経細胞膜の主要構成成分であり、情報伝達のスピードや正確性に直接関わっています。
九州大学の久山町研究では、魚を多く食べる人は認知症の発症リスクが有意に低いことが示されました。週に2〜3回以上の青魚の摂取が推奨されています。さば・いわし・さんま・鮭・まぐろなどに豊富に含まれています。
葉酸やビタミンB6・B12は、血中のホモシステイン濃度を低下させる働きがあります。ホモシステインは高値になると脳血管障害や認知機能低下のリスクを高めることが知られています。
イギリス・オックスフォード大学の研究(OPTIMA試験)では、ビタミンB群の補充により脳萎縮の速度が約30%抑制されたと報告されています。葉酸はほうれん草・ブロッコリー・枝豆・レバーに、ビタミンB12はしじみ・あさり・さんまなどに多く含まれます。
ビタミンEは脂溶性の抗酸化ビタミンで、脳の神経細胞を酸化ストレスから守る働きがあります。アルツハイマー型認知症の病理には、神経細胞の酸化ダメージが深く関与しているとされ、ビタミンEの摂取が予防に寄与する可能性が示唆されています。
アーモンド・かぼちゃ・ほうれん草・うなぎ・植物油に多く含まれます。ただし、脂溶性ビタミンのため過剰摂取には注意が必要です。
ブルーベリーに含まれるアントシアニン、緑茶のカテキン、トマトのリコピン、にんじんのβ-カロテンなど、植物性食品に豊富な抗酸化物質は、脳内の酸化ストレスと炎症を抑制する効果があります。毎日の食事で色とりどりの野菜や果物を摂ることが、脳の老化防止につながります。
地中海食は、オリーブオイル・魚・野菜・果物・豆類・全粒穀物を中心とした伝統的な食事パターンです。2013年にユネスコ無形文化遺産にも登録されました。
フランスの大規模研究(Three-City Study)では、地中海食への順守度が高い高齢者は認知機能の低下が有意に緩やかであることが示されています。また、スウェーデンの研究では、地中海食パターンを守った群は10年後の認知症発症リスクが約25%低かったと報告されています。
日本の伝統的な和食も、実は地中海食との共通点が多くあります。魚の多食、大豆製品の活用、海藻類の摂取、緑茶の飲用はいずれも認知症予防に有効な要素です。これに緑黄色野菜やナッツ類を意識的に加えることで、日本版のMIND食を実践できます。
食事の内容だけでなく、「誰と食べるか」も認知症予防に大きく関わっています。国立長寿医療研究センターの研究によると、共食(誰かと一緒に食事をすること)の頻度が高い高齢者は、孤食の方に比べて認知機能の低下が緩やかであることが示されています。
食事中の会話は脳を活性化し、献立を考え・買い物をし・調理する一連の行為は高度な認知機能を使います。配食サービスの配達員との短い会話であっても、社会的なつながりを維持する一助となります。
認知症は一朝一夕に発症するものではなく、長年の生活習慣が積み重なった結果です。毎日の食事を見直し、脳に良い栄養素を意識的に摂り続けることが、将来の認知機能を守る最も確実な方法です。
最初に、前提をはっきりさせてください。
特定の食品を食べれば防げる、というものではありません。そう謳う商品には注意してください。断定した表現は、根拠が弱いことが多くあります。
食事は、要素のひとつです。運動、睡眠、人との関わり、持病の管理。これらが組み合わさります。
そして、心配な症状があるなら、受診してください。食事の工夫で様子を見ないでください。早く分かるほど、できることがあります。
治療が必要な状態と、予防の話は別です。混同しないでください。判断は医師が行います。
回り道に見えて、最も確かな部分です。
血管の状態が、脳の働きに関わります。血圧が高い状態が続くと、負担がかかります。ここを整えることに意味があります。
そして、糖の管理も同じです。持病がある方は、指示を守ってください。これが最も具体的にできることです。
健康診断を受けてください。気づかないうちに進んでいることがあります。数字で確かめられます。
薬を処方されている方は、飲み続けてください。自己判断でやめないでください。効いているから、その状態なのです。
優先順位の話です。
体重が減っている方に、細かい制限を勧めるのは適切ではありません。栄養が足りないほうが、体全体に響きます。まず量を確保してください。
そして、やせている方ほど、体力が落ちます。動けなくなり、外出が減り、人と会わなくなります。そこから全体が縮みます。
何を食べるかより、食べているかを先に確かめてください。三食入っているか、体重が減っていないか。ここが土台です。
迷ったら、管理栄養士に相談してください。今の食事内容を見せてください。優先順位を整理してもらえます。
最も実行しやすい一手です。
週に何回魚を食べているかを数えてください。思っているより少ないことが多くあります。肉に偏っていないか確かめてください。
そして、調理の手間が理由なら、方法があります。缶詰、切り身、下ごしらえ済みのもの。手間をかけずに続けられます。
缶詰は、そのまま食べられます。汁ごと使えば、無駄になりません。ただし、味の付いたものは塩分が加えられています。
骨が心配な方は、缶詰を選んでください。骨がやわらかく、そのまま食べられます。ほかの栄養も取れます。
難しく考えなくて構いません。
色の違うものを、いくつか入れてください。緑、赤、黄、紫。色が違えば、含まれるものも違います。
そして、汁物に入れる方法が最も楽です。切って入れるだけです。量も取れます。
冷凍のものも使えます。切って売られているものなら、手間がかかりません。買い置きもできます。
果物は、そのまま食べられます。ただし、糖の量に指示がある方は、量を確かめてください。医師に相談してください。
栄養以外の効果があります。
一人で食べ続けると、量が減ります。作る意欲も落ちます。そこから偏りが始まります。
そして、人と話すことそのものに意味があります。会話は、頭を使う行為です。食事の場が、その機会になります。
地域で、食事の場が開かれている場合があります。市町村や社会福祉協議会の窓口で聞いてください。近くにあるかもしれません。
離れて暮らす家族は、時間を合わせて電話しながら食べる方法もあります。顔が見えなくても、一緒に食べる形になります。週に一度でも違います。
食事と同じくらい大事です。
座っている時間が長いほど、体も頭も動かなくなります。一時間に一度は立ってください。難しいことではありません。
そして、歩く習慣が最も続けやすくなります。激しい運動は要りません。毎日少しずつのほうが効きます。
外に出ると、日を浴びられます。生活のリズムが整い、眠りにも関わります。短い時間で構いません。
膝や腰に痛みがある方は、無理をしないでください。合った方法があります。医師や理学療法士に確かめてください。
見落とされやすい部分です。
眠れない日が続くと、日中の調子に響きます。食欲も落ちます。ここが崩れると、ほかも崩れます。
そして、朝に日を浴びると、夜に眠りやすくなります。カーテンを開けるだけで構いません。簡単にできることです。
昼寝が長いと、夜に眠れなくなります。短い時間にとどめてください。夕方以降は避けてください。
眠れない状態が続くなら、医師に相談してください。自己判断で市販の薬を続けないでください。原因があります。
意外に思われるかもしれません。
聞こえにくくなると、会話が減ります。人と会うのが億劫になります。そこから孤立が始まります。
そして、見えにくくなると、外出が減ります。転ぶ危険も上がります。生活の範囲が縮みます。
補う道具を、早めに検討してください。我慢して過ごす期間が長いほど、失うものが増えます。専門の医療機関で相談してください。
本人が嫌がる場合があります。年寄り扱いされたくない、という気持ちです。責めずに、必要性を伝えてください。
最後に、最も大事な点です。
物忘れが増えた、同じことを繰り返す、道に迷う。気になる変化があれば、受診してください。様子を見続けないでください。
そして、別の原因で似た症状が出ることがあります。薬の影響、体の別の不調。調べれば分かります。
かかりつけの医師に、まず相談してください。必要な科を案内してもらえます。自分で選ばなくて構いません。
地域包括支援センターも相談先になります。介護保険を使っていなくても相談できます。住んでいる市町村にあります。
ここまでは予防の話ですが、 すでに認知症の方を介護されている方からのご相談も多くいただきます。 起きていることに名前が付くと、対応が変わります。
| 起きること | 背景 | 手当て |
|---|---|---|
| 食べたことを忘れて、また食べたがる | 満腹感より記憶の問題 | 叱らず、少量の間食を用意しておく。食事の器を下げずに残しておく |
| 食べ物と分からず、手をつけない | 目の前のものが何か認識できない(失認) | 一品ずつ出す。「これはお魚です」と声をかけて、手に箸を持たせる |
| 箸やスプーンが使えない | 道具の使い方が結びつかない(失行) | おにぎり・サンドイッチなど手で持てる形に(片手で食べられる形) |
| 途中で立ち歩く、集中が続かない | 周りの音・人・テレビに気が散る | テレビを消す。物を減らす。向かい合って座る |
| 口に入れたまま飲み込まない | 飲み込む合図が出ない | のどをさする、声をかける、次の一口を急がない |
| 特定のものしか食べない | 甘いものへ偏ることが多い | 止めるより、食べるものに栄養を混ぜる |
共通するのは、本人が困らせようとしているのではないということです。 急かす・叱ると、食事そのものを嫌がるようになります。 時間がかかっても、食べているうちは待つほうが結果的に早く済みます (食事の介助、食事にかかる時間)。
認知症の方の食事量は、何を出したかより どういう場で出したかで変わります。 献立を工夫する前に、次を確かめてください。
体重が落ちてきたら、認知症の進行より先に 食べられていないことのほうを疑ってください(低栄養とその対策)。 見守りと支えの手立ては認知症の方の見守りにまとめています。 介護されている方が疲れ切ってしまう前に、 食事を外に出す手もあります(介護する人の食事)。
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